私は生まれてすぐに高熱を出し、その影響で左目の視力が弱い。
正常な右目と比べると瞳の色も極端に薄く、青みがかった灰色。
この目を、幼い頃、同年代の子供たちに気味悪がられた。
見られないよう、いつも前髪を長くしている。


卒業。新たな旅立ちを前に、別れを惜しむ友達がいないのも、今に始まったことじゃない。
千雅は、なにか言いたそうに私を見ていたけど、ふとなにか気付いたように歩いていった。
黒い学生服の背中を目で追うと、私が落とした卒業証書の筒を拾って、こちらに戻ってきた。


「ほら」

「う、うん。……ありがとう」


ヌッと胸元に突き出され、私はそっと手を伸ばした。
だけど、受け取ろうとした手が宙を掻く。


「っ……」

「おい。どうした?」

「ごめん。ありがとう」


私はもう一度お礼を言って、今度は慎重に筒を受け取った。
千雅は訝し気に首を傾げてから、


「帰ろうか」


私を促し、先に立って歩き出す。
私は胸元で一度、筒を持つ左手にギュッと力を込めてから、改めて彼の背中に目を凝らした。


――ああ、やっぱり。
もともと、ぼんやりとしか輪郭を結べない左目が、今は光さえ感じない。