午後十時、両親が寝室に下がった。
私は家中が寝静まるのを待ち、音を立てないように自室の窓を開けた。


春と言っても、吹き込む夜風はまだまだ冷たい。
澄み切った夜空には、無数の星が瞬いている。
私は胸いっぱいに空気を取り込み、深呼吸をして――。


「白夜……会いたい。会いに来て」


心臓がドキドキ騒ぐのを自覚しながら、ボソッと呟いた。
白夜は、いつも突風を巻き起こして現れる。
唸る風は騒々しく、なかなかはた迷惑な登場だ。
隣の寝室で眠っている両親を起こしてしまわぬよう、静かに入ってきてくれることを期待して窓を開けた。


だけど、頬を撫でるそよ風は、ほんの少しも強まらない。
辺りはしんと静まり返ったままで、なにも起きない。
私は背後を振り返り、狭い部屋を隅々まで見渡した。


――白夜が、来ない。
昼間、不用意な一言で傷つけてしまったせい?
『いつでも来てやる』って言ったのに、怒ってるから来てくれないの?
私は焦燥感に駆られ、窓枠に両手を置いた。


「っ……白夜、お願い」


空に向かって乞い、彼の姿を捜して身を乗り出した。
すると。


「落ちるぞ」


頭上から素っ気ない声が聞こえ、ハッとして屋根を振り仰いだ。