思わず目を擦り、モニターを凝視した。
返信を入力できないどころか、千雅のメッセージまでぐにゃりと歪んでいき――。


「……白夜っ!」

「俺という許嫁がありながら、人間最後の日は、他の男と逢瀬か? 気が多くて呆れる」


こんなことができるのは彼以外いないという確信から、咎めようとした途端に阻まれた。


「そんなんじゃない。千雅は兄妹みたいに育った幼なじみで……」

「男には違いない。嫁入り前から姦通罪を犯すつもりか?」

「は?」

「白夜。姦通罪が存在したのは戦前まで。今の日本には存在しないわ」


不穏に言い合う私たちに、小町が冷静に口を挟む。
白夜がムッと口を曲げて黙ると、彼女は私に顔を向けた。


「水葵は知らなくていい知識よ」

「う、うん……?」


中途半端に話題を回収されて、毒気を削がれた。
勝手で横暴な白夜への強い反発心を持て余してしまい、私は彼から身体ごと顔を背けた。
背後で、忌々しげな舌打ちが聞こえる。


「……勝手にしろ」


苛立ちも露わな呟きと同時に、またしても突風が起きた。
風がやみ、白夜がいなくなったのを確認して、私はがっくりと肩を落とした。


「毎回毎回……もっと静かに帰れないかな」