白夜が私の目の前で、両足を揃えて止める。
大きく黒い影が降ってきて、私は半ば導かれるようにして顔を上げた。


「行き場を失った魂は、地縛霊となる。そうして悪霊化する」

「地縛霊……悪霊化する……」


噛み砕いて考えるまでもなく、今の私はそれと等しい存在ということだ。
自分がすでに死んでいるというのも受け入れ難いのに、今の私は地縛霊と同じで、悪霊化するなんて言われて、とても冷静ではいられない。


「嫌……。嫌だ、嫌だ、そんなのっ……」


髪を掻き毟る勢いで頭を抱えた私の手を、白夜が掴んで止めた。


「だから俺はお前の魂を回収し、お前が存在したせいで狂った現世を、元に戻す」


私は彼に手を取られたまま、


「……回収?」


固い声で反芻した。
なにかが、ザラッと心を逆撫でする。
白夜は「そう」と頷いて、私の手を放した。


「俺は、お前の両親が認めた、お前の許嫁だ。幽世で、俺の妻として再生させ……っ?」


彼が話しながらこちらに向けた背中に、私はソファから掴み上げたクッションを思いっきり投げつけた。
白夜は虚を衝かれたように振り返り、床に落ちたクッションを肩越しに見下ろす。


「迎えに来るって、そういうこと……?」


呆然と呟く私に、訝し気に眉根を寄せた。
私は顔を伏せ、固く握った手に目を落とす。