すると、彼は不快に眉をひそめる。


「傲慢で悪かったな。お前はもっと、素直で可愛げのある娘に育てられるべきだった」

「……は?」

「なんだって、こんな屁理屈女に……」

「っ、白夜っ……!!」


私は大きな声をあげて、一人で勝手に憂う彼を阻んだ。
それなりに迫力が出たのか、彼も口を噤む。
私は肩を大きく動かし、ぜえはあと息をして……。


「な、なんで。私今、『傲慢』なんて言ってな……」

「水葵っ!?」


彼に噛みつく勢いで言ってる途中で、階下から母の切羽詰まった声がした。
ハッとして振り返ったドアの向こうで、バタバタと階段を駆け上がる足音がする。


「水葵、どうしたの? なにがあったの!?」

「……ちっ」


近付く足音に身を竦ませていると、彼が顔をしかめて舌打ちをした。


「一緒に来い、水葵」


『え?』と聞き返す間もなく、私の目の前が真っ暗になった。
それが感覚的なものではなく、黒ずくめの彼に物理的に抱え込まれたせいだと気付き、息をのんだ刹那――。


「っ!!」


ゴーッと、竜巻に巻き込まれたかのような激しい耳鳴りがして、私は全身を強張らせて固く目を閉じた。