「水葵」
身体の底から絞り出すような声に、ビクンと肩を震わせる。
戸惑いながら、恐る恐る視線を返すと、父は信念のこもった目で私を見つめていた。
「現世と幽世。世界を違えても、私はお前に生きていてほしい。生きてさえいてくれれば、私たちはこれからも共に暮らしていける」
熱く語る父の瞳が、うっすらと湧いた透明の膜で曇る。
今まで見たことがない父の涙に、私の心臓がドクッと沸いた、その時……。
――シャラン。
涼やかな鈴の音がした。
私はハッとして、拝殿の方を見遣った。
開門時間になり、拝殿の中央に下げられた本坪鈴を、参拝客が鳴らした音と思ったからだ。
だけど、拝殿前には誰もいない。
鈴も鈴緒も揺れていなかった。
耳の錯覚かと首を捻ったものの、父も拝殿の方を見ているのに気付いて、ゴクッと唾を飲む。
父にも聞こえたのだ。
本坪鈴の音が。
参拝で本坪鈴を鳴らすのは、身を祓い清めるとか、魔除けという意味がある。
そして、もう一つ。
参拝に来たことを神様に知らせ、お招きするという意味――。
私は無意識に自分の身体を抱きしめ、二の腕を摩りながら、幣殿をグルッと見回した。
もちろん、父と私以外には誰もいない。
――人間は。
身体の底から絞り出すような声に、ビクンと肩を震わせる。
戸惑いながら、恐る恐る視線を返すと、父は信念のこもった目で私を見つめていた。
「現世と幽世。世界を違えても、私はお前に生きていてほしい。生きてさえいてくれれば、私たちはこれからも共に暮らしていける」
熱く語る父の瞳が、うっすらと湧いた透明の膜で曇る。
今まで見たことがない父の涙に、私の心臓がドクッと沸いた、その時……。
――シャラン。
涼やかな鈴の音がした。
私はハッとして、拝殿の方を見遣った。
開門時間になり、拝殿の中央に下げられた本坪鈴を、参拝客が鳴らした音と思ったからだ。
だけど、拝殿前には誰もいない。
鈴も鈴緒も揺れていなかった。
耳の錯覚かと首を捻ったものの、父も拝殿の方を見ているのに気付いて、ゴクッと唾を飲む。
父にも聞こえたのだ。
本坪鈴の音が。
参拝で本坪鈴を鳴らすのは、身を祓い清めるとか、魔除けという意味がある。
そして、もう一つ。
参拝に来たことを神様に知らせ、お招きするという意味――。
私は無意識に自分の身体を抱きしめ、二の腕を摩りながら、幣殿をグルッと見回した。
もちろん、父と私以外には誰もいない。
――人間は。