母が、お椀を落としていた。
零れた味噌汁がテーブルに広がっても、凍りついたように動けずにいる。
私は黙って立ち上がり、布巾を手に母の味噌汁を片付けた。
一度キッチンに下がり、布巾をゆすぐ。
母の分の新しい味噌汁を持ってテーブルに戻ると、私を目で追っていた様子の父と視線がぶつかった。
父も母も、驚きではなく怯え……なにか予期していたような反応が色濃かったから、私はむしろ冷静になっていく。
意図的にゆっくり椅子に腰を下ろし、改めて父に目線を上げた。
「死神様は私の命を狩らずに、立ち去りました。俺の神力が尽きるまで……それがお前の余命だと言い残して」
私が話す途中で、母が両手で顔を覆い、啜り泣き始めた。
父は大きく目を瞠って、黒い瞳を揺らす。
私は胸を動かして深呼吸してから、膝に両手を突いて父の方に身を乗り出した。
「お父さん、教えて。死神様の神力って、どういうこと……?」
私が発した質問が、いつも明るく忙しない朝の食卓に、重苦しい余韻となって漂う。
父は箸を置いて沈黙し、母の啜り泣く声だけがダイニングに響いた。
零れた味噌汁がテーブルに広がっても、凍りついたように動けずにいる。
私は黙って立ち上がり、布巾を手に母の味噌汁を片付けた。
一度キッチンに下がり、布巾をゆすぐ。
母の分の新しい味噌汁を持ってテーブルに戻ると、私を目で追っていた様子の父と視線がぶつかった。
父も母も、驚きではなく怯え……なにか予期していたような反応が色濃かったから、私はむしろ冷静になっていく。
意図的にゆっくり椅子に腰を下ろし、改めて父に目線を上げた。
「死神様は私の命を狩らずに、立ち去りました。俺の神力が尽きるまで……それがお前の余命だと言い残して」
私が話す途中で、母が両手で顔を覆い、啜り泣き始めた。
父は大きく目を瞠って、黒い瞳を揺らす。
私は胸を動かして深呼吸してから、膝に両手を突いて父の方に身を乗り出した。
「お父さん、教えて。死神様の神力って、どういうこと……?」
私が発した質問が、いつも明るく忙しない朝の食卓に、重苦しい余韻となって漂う。
父は箸を置いて沈黙し、母の啜り泣く声だけがダイニングに響いた。