「おはよう、水葵」


すでに身支度を済ませ、テーブルに着いていた父が、開いていた新聞から目を上げた。


「水葵、ご飯よそって持っていって」


キッチンで味噌汁の味見をしながら、母が声をかけてくる。


「……うん」


私が、家族三人分のご飯を茶碗によそって、父の斜め前の席に着くと、母が味噌汁を運んできて隣に座った。
父も新聞を畳み、テーブルに向き直る。


「では。五穀豊穣の神々に感謝を。いただきます」


二宮家では、父の口上に両手を合わせて、食事が始まる。


「いただきます」


母が呼応して箸を手にした。
私は、味噌汁を飲む両親に交互に目を向け、


「お父さん」


箸は取らず背筋を伸ばして、改まって呼びかける。


「ん?」


視線を返され、一度ごくりと唾を飲み……。


「昨夜、死神様が来ました」


あえて淡々と、詩を朗読するみたいに言ったせいか、父と母の反応は遅かった。


「……え?」


父が顔を強張らせ、たどたどしく聞き返すのと、ガシャンという音が被った。