あの日、桜の下で交わした約束

同時に、この人にだけは絶対に言わないと心に誓った。

 週末は花恋と会う。お互いの家まで2時間以上はかかるので、たまにしか会うことが出来なかった。一緒にごはんに行ったり、映画を観に行ったり、家で2人の好きな映画を観たり、行きつけのバーに行ったり、時には何もせずにゴロゴロとしているだけだったり。

 行きつけのバーのスタッフは、瑠那と花恋が付き合っていると、最初から思っていたらしい。付き合い始めてから、改めて報告をすると、花恋の想いを知っていたスタッフは
「花恋、よかったな」と口にし、一緒に喜んでくれた。
もう口外しないと決めたにも関わらず、そのスタッフに伝えることができた理由は、長らく通っているので、様々なことを話し合って来て、色々とお互いに知っていたからだった。そしてそのスタッフも、瑠那たちと同じく両性愛者だったからだ。

 お互いに気を遣わなくてもいい相手なので、とても気が楽だった。口には出さないが、お互いに、ずっと一緒に居たいと思っていた。
 渋谷区はパートナーシップの制度が認められているので、
「渋谷に行こうか」や、
「早くこの辺りの地域でも、パートナーシップの制度を認めてほしいよね。日本は厳しいから外国に行く?」と、よく半分冗談交じりで話しては笑っていた。

 瑠那も花恋も、心地よさを感じていた。
 周りからの目線は痛かったが、2人でなら乗り越えることができると信じていた。

 気温はすっかり下がり、外はよく雪化粧をしていた。
 瑠那は今日も仕事で、とても疲れていた。本来ならば、自分の仕事ではない仕事を大量に押し付けられ、残業や、休憩なしで働き続けていた。
 どうしてここの会社は、こんなにも仕事ができない人ばかりなのだ、と日々疑問に思っていた。その人達ができない仕事が全て瑠那に回ってくるのだった。
 中でも理解に苦しんだ仕事は、テレビ、エアコン、水道、トイレの修理だった。瑠那の現在の仕事とも、今までの他の仕事とも、全くの無関係な内容である。使えないと不便なので、結局は瑠那が直すしかないのだが。

 数日後の土曜日。今日の夜は花恋と会う約束をしていた。21時にいつものバーの最寄り駅で待ち合わせだった。仕事中は今夜のことが頭から離れず、
「早く、お仕事終わらないかなー」と、無意識に何度も時計に目をやっていた。