あの日、桜の下で交わした約束

反対の意見を挙げたのは、彩だけだった。
「こんな時に何を言っているの? もう時間がないんだよ?」
「こんな時だからだよ!」普段は穏やかな瞬が声を荒げた。
 場は静まり返った。運動部の練習の掛け声がやけに大きく聞こえた。やがて、瞬が口を開いた。
「今どうしてこんなにもまとまりがないのか、各々気が付いているんじゃない?」
 全員が俯いてしまった。
「私がいるから?」彩は口にした。
 誰も反応はなかった。
「やっぱり戻ってこなければよかったね」自虐的な笑みを浮かべながら彩は言葉を発した。
「いきなり辞めると言ったり、戻って来たと思ったら夏休みの練習には一度も顔を出さなかったり。そんな自分勝手な行動に全員を巻き込んでいるんだよ? いなければいいとかそういう自虐的な意見を求めているのではない。みんなの納得のいく理由を知りたいんだ」瞬は言葉を紡ぐ。
「ごめん……。辞めたのは勉強が目的。夏休みは勉強をしたいのと、アルバイトが忙しかった。学校に来るのも面倒だった。家では弾いていたけど。戻って来たのは、進学が困難だと分かったから。それと、純粋に音楽が好きだから」
「その純粋な気持ちだけで俺たちは音楽をやりたい。勿論、勉強やアルバイトも大切だとは思う。だけどバンドは運動部で言えば、個人競技ではなく、団体競技なんだよ。1人でも欠けたらダメなんだよ」
「みんな、ごめんね……」彩は涙を滲ませながら言葉を紡ぐ。
 部室を揺蕩っていた空気は、鈍色からオレンジ色のような雰囲気に変わったことが全員分かった。
 もう一度、練習を開始した。

 高校最後の文化祭当日。
 今までで一番いい演奏ができたような気がした。達成感でみんな、涙を流して抱き合った。
 みんなの持っている色は違うけれど、各々の色は、今回のステージ上では加法混色となった。綺麗に混ざり合い、白い眩(まばゆ)い光に包まれた。

 あっという間に卒業式になった。
 帰り道に、時々寄っていた公園にみんなで行くことにした。
 遊んでいるみんなを咲き始めた桜と一緒に眺めながら、高校最後の日を謳歌した。まるでこの時間を心に焼き付けるかのように。
夕日がとても綺麗だった。
 いつかまたこのみんなで、この夕日を観ることができたらいいなと瑠那は思った。



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