「今は何もないよ。連絡先もブロックされているくらいだしね」瑠那はそう口にして飲み物を飲んだ。
「ブロックって……」恋愛ごとには音沙汰の無い瞬が口を挟む。
「あのとき、だいぶ修羅場だったんだよ?」瑠那は笑いながら、自分のバッグの中から、ペンを取り出し、机の上のカスターに図を書き始めた。一見、何の図だか分からないが説明をされるとみんな恐怖で硬直した。
黒丸を中心に、周りに4つの白丸とそれに対する矢印を書いた。
『花恋は瑠那に。瑠那は先生に。
 彩(あや)は結貴(ゆうき)に。結貴は瑠那に』という図だった。瑠那は、1人1人白丸が誰なのかを説明しながら矢印に×マークなどを加えていった。
 一通り説明が終わったところで4人は同時に
「やばいな」と口にした。
 瑠那を中心に二重三角関係ができあがっていたのだから。当然と言ったら当然の反応なのかもしれない。
 瑠那はこの時に初めて知った。高校3年生の春頃に、莉沙と花恋から日々少し意味不明なメッセージが来ていた理由を。

 莉沙と花恋は、梅林に言われて、瑠那にメッセージを送っていたのだと公言した。莉沙と花恋から更に詳しい話を聞き、瑠那も梅林との出来事について、打ち明けた。話が終わると、4人は同時に
「あいつ、こわっ……」と口にした。
 恋愛に疎い瞬は、食欲すらも失せてしまったらしい。
 瑠那は莉沙と花恋に謝った。巻き込んでしまったことを。


 *

 瑠那たちは高校の頃、軽音部に所属していた。
 岬(みさき)瑠那はギター&ボーカル、泉(いず)美(み)花恋はベース、潮見(しおみ)莉沙はキーボード、星野瞬はボーカル、望月彩はツインギターのもう1人、梅林結貴はドラムを務めていた。
 元々部員の少ない部活だったので、バンドを保つことも難しかった。先輩たちが引退し、残されたのは4人。1学年下の花恋と莉沙はまさに救世主だった。
 各々とても個性が強く、色が違う。部活のメンバーを見ていると、まるでパレットの上の絵の具のようだなと思った。
 各々の持つ色が違うからこそ、混ざり具合で、綺麗な色を作ることが出来る。だけど、色の割合を間違えれば、絵の具は減法混色なので、濁った色が出来上がってしまう。まるで人間関係のようだと思う。

 学校の並木道の木々の葉は、赤色や黄色に色を変え始めていた。