あの日、桜の下で交わした約束

『じゃぁ今日はお疲れ様。ゆっくり休んで、また明日からのお仕事、頑張ってね』応援している様子のペンギンのスタンプを送った。
『はい、ありがとうございます。先輩も無理せずに、頑張ってください!』と送られてきて、家に着いて、お互いに『おやすみ』と送り合うまでメッセージのやり取りは続いた。
 次がいつになるのかは、瑠那にも花恋にも予想は出来なかったが、その日を楽しみに、お互いの日々を見送っていく。
 楽しいことや目標があれば、人間は生きる希望を抱く。それを胸に、時に身を委ねるのだった。

 楽しい時間は永遠には続かない。だが、思い出として綺麗な色に混ざり合い、脳内を塗っていく。
そうやって人の記憶は、保持されるのかもしれないと思った。




暖かな陽気に包まれた日、私たちは桜の下で約束を交わした。
 私の口にした言葉に相手は胸を打たれたらしい。

桜の時期がやってきた。
 瑠那はもう、高校を卒業だ。学年が1つ下の花恋とは毎日会うことはできなくなってしまう。
 卒業式の日、桜の下で約束を交した。
「花恋が高校を卒業したら、一緒に暮らそう」
 花恋は目を輝かせながら喜びの声をあげた。
「待っているね」瑠那のその一言は花恋の心にとても響いたらしい。一瞬、瑠那の視界に入った花恋の涙がとても輝いて見えた。

 *

 時が流れ、花恋も社会人になった。

その後は、休みを合わせ、お互いの家に泊まりに行ったり、遊びに行ったり、と高校の時以上に深く楽しい時間を過ごした。
 しかし、そんな幸せは長くは続かなかった。
『ずっと一緒に居たい』その想いは同じだったが、花恋は引っ越すことになってしまった。
 簡単には会うことのできない距離になってしまい、連絡を取り合うしか出来なくなっていた。

一緒に暮らすことは出来なかったが、本音で話せる大親友ができた。それはお互いにとって、嬉しいことだった。
 毎年、桜の木を見ると叶えられなかった約束を思い出す。
 しかし、今は後悔をしていない。
 その出来事があったからこそ、今はより深くお互いを支えていけているのだから。

(了)