──そして現在。

 僕と理夏はまだ結婚していない……どころか、別れの危機に直面していた。
 気持ちが冷めたわけでも無く、浮気をしただの、性の不一致だのでもない。

 ロンガヴィタの開発は順調に進み、奇しくも今日、ついに試作品第1号が完成し、通常環境で花が咲くかどうかを確認するため、種を家に持ち帰ってきた。

 しかし、その家に理夏はもう居ない。

 
 その理由は……特定ヒトアレルギー症候群。
 数年前に初めて発見された新種の病。発症頻度は数千万人に1人という、治療法の手がかりすら掴めていない難病に、理夏が蝕まれてしまった。

 その症状は『特定の人間と一定時間近くに居るだけで死んでしまう』という恐ろしいもの。
 1番身近な人が発病の対象になることがほとんどで、別名〈離恋病《りれんびょう》〉とも呼ばれていた。

 そして、理夏にとってその『特定の人間』が僕、という残酷な現実。

 つまり、大好きな理夏のそばにいるだけで、この僕自身が原因で彼女を死に至らしめてしまう。
 その上、特効薬も治療法も何も無い、不治の病と言われていて……。