どれぐらい時間が経ったのか。
 突然、警告音が変化した。

 ピッ……ピッ……ピッ……。

 それはまるで、弱っていく彼女の心音を現してるかのように思えた。

「……ねえ、順平」

「……なに?」

「私が死んだらさ、すぐに新しい彼女見つけるんだよ」


「な、なにバカなこと言ってんだよ! 理夏が死ぬわけ無いじゃん!」
 
 我ながらなんていい加減なセリフ。
 どうなるか分かってるのに抱きしめたまま離れない男が何を言う。

「うん、私って本当にバカだよね。順平の事が大好きで、順平とこうやって一緒に居られるだけで幸せで、最後に抱きしめることができたらもう死んでも悔いは無い! って思っちゃったんだから」

 理夏は弱々しくフフッと笑った。

「だ、だったら僕も大バカだよ! 理夏がどうなるかって分かってるのに、ずっとこうやってるんだから……」

「ありがとう、順平。でも、この病気になっちゃったのは誰でも無く私のせい。私の体がこうなっちゃったんだから、全ての責任は私に──」

「んなわけねーだろ! 発病する対象が僕なんだから、少なくとも僕にだって──」

「やめて! 絶対に……絶対絶対絶対、順平が悪いなんてこと絶対に無いんだから! それ以上言ったら許さないよ! 分かった??」

 警告音……いや、理夏の心音のインターバルがどんどん広がっていく。
 もう、後戻りできない段階まで来てるのは明白だった。
 それなのに、彼女は真剣な眼差しで僕に釘を刺したあと、ニコッと満面の笑みを浮かべた。
 この状況でそんな笑顔を見せる彼女に、刃向かうことなんて出来るわけがない。
 
「……ああ、了解。そんな風に思わないよ」

「よしっ! 良い子だ良い子だ」

 理夏は笑いながら、手の平で僕の頭を撫でてくれた。