しばらくすると母親が彼を促して病院の入口へと歩き出した。


しかし彼は途中で立ち止まる。


病院に入るかどうか躊躇しているようだ。


その間にも雨脚は強くなり、テレビの音すらもかき消してしまう。


それでも病院内に入ってこようとしない彼を見て、私は思わず病室を飛び出していた。


あんな大雨の中突っ立ってなにしてんの。


あんなにずぶ濡れになってなにしてんの。


考えれば考えるほどに苛立ちを感じた。


あんなのまるで私のせいみたいだ。


私があの時彼を突き放してしまったから、そのせいで彼が病室まで来られなくなっ
たように見える。


私は目の奥がジンジンと熱くなってくるのを感じて、奥歯を噛み締めた。


絶対に泣くもんか。


そう決めて病院の入口までやってきた。


雨の中、彼が呆然としてこちらを見つめている。