口に出してそう言い、ブンブンと首を振って脳裏から平塚くんの顔を追い出した。


勝手に人の心を呼んで、勝手に人の余命を知った失礼なやつ。


その上もうすぐ死ぬからという理由で近づいてきたんだ。


変人を通り越して最低な人間だ。


もう彼のことなんて思い出したくないのに、気を緩めるとふと考えてしまう。


そんな自分に嫌気が刺してきた時、不意に窓の下に母親の姿を見つけた。


今日は私の着替えを洗濯して持ってきてくれる予定になっている。


透明な傘を差して大きな荷物を持って歩いてくる母親が不意に立ち止まった。


病院の入り口から少し離れた場所に小道があり、そちらへ向かって歩き出す。


どうしたんだろう?


そう思って母親の先へ視線を向けると、そこに傘もささずに立っている人物を見つけた。


その瞬間心臓がドクンッと跳ねる。


一体いつからそこにいたんだろう?


その人はずぶ濡れで、制服もずっしりと水をスッているようだ。


母親がその人に傘をさしかけるのが見えた。


何を話しているのか気になったけれど、さすがにここからじゃ会話までは聞こえない。