別に休日なのだからどこにいてもいいのだけれど、まさかここで遭遇してしまうとは思っていなかったので、つい慌ててしまった。


母親の腕を握りしめて顔を隠すようにうつむく。


「どうしたの? 気分でも悪くなった?」


「ううん、そうじゃなくて……」


説明する暇もなくその人はどんどん近づいてくる。


そして私の隣を通り過ぎるとそのときだった。


彼の隣に見知らぬ女の子がついて歩いているのが見えた。


彼は相変わらず無表情で、女の子の方が一方的に話しかけているようだ。


けれど女の子はとても楽しそうで、そして私とは比べものにならないくらい可愛かった。


小柄で華奢で、思わず抱き締めたくなるような女の子。


彼は私に気がつくことなく通り過ぎていく。


心臓がギュッと握りしめられたように鋭く痛む。


平塚くんはそのまま女の子と2人で人波に紛れ込んでしまったのだった。