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「あの……さっきはごめん」


教室へ戻った瞬間私は棒立ちになって、呆然として目の前の人物を見つめた。


目の前に立っているのは平塚くんで、気まずそうな表情で頭を下げている。


ついさっき触らぬ神に祟りなしだと思った矢先の出来事だった。


平塚くんは相変わらず抑揚のない声をしていたけれど、その表情は本当に申し訳なさそうで、そしてカッコイイ人だと謝罪するときもカッコイイんだなぁなんて、思ったりもした。


「ううん、大丈夫だよ」


たっぷり数十秒間平塚くんの顔に見惚れた後、ようやく左右に手を振って答えた。


実際に手の痛みは消えていたし、大したことでもなかった。


すると彼はホッとしたように笑みをこぼした。


ドクンッ!


なにその笑顔!


反則級の優しい笑顔に私の心臓はまた大きくはねてしまう。


これは違う。


なにかの間違いだ。