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それは休憩時間中のことだった。


ゴミを捨てに行こうと席を立ち、教室後方へ歩き出したときだった。


クラスメートに囲まれることもなくなった平塚くんが、教科書を片付けていた。


その手が机の端に置いてあった消しゴムに当たって床に落ちたのだ。


咄嗟にそちらへ向かい、しゃがみこんで手をのばす。


消しゴムやエンピツが机から落ちることはみんな日常茶飯事で、落ちるのを目撃すればできるだけ拾ってあげるようにしている。


だから今回も条件反射みたいなものだった。


消しゴムに手が触れそうになったとき、もう一方から伸ばされた手が触れた。


ハッとして視線を向けると平塚くんと視線がぶつかる。


その目は大きく見開かれていて、口は半開き状態だ。


そんなに驚く必要なんてないのに。


そう思いながら手を引っ込めようとしたところ、パシンッ! と音がしていた。


一瞬なにが起こったのか理解できなかったが、伸ばしていた右手にヒリヒリとした痛みを感じて叩かれたのだと理解した。


平塚くんは消しゴムを奪うように拾うと、二度とこちらを見なかったのだった。