3、どうやら解決したようです。



次の日、いつもより早く学校に登校した。珍しく花音と一緒に。
教室に入る前に中をちらっと見ると井上さんたちが私の机を荒らしていた。やっぱり、私やほかのクラスメイトが来ない時間にしていたんだ。
緊張のせいか少し呼吸が荒くなる。
「沙奈恵?大丈夫?」
花音が私を心配そうに見つめる。
「大丈夫、むしろ決定的な証拠が見れたから、容赦なく言える」
勇姿を振り絞り、教室に入る。
勢いよくドアを開けると、井上さんたちは私たちの方を見て驚いた。
昨日、花音と相談して決めたことを、ゆっくり、噛まないように、丁寧に言う。
「…なんでそんなことするんですか……?私に文句があるなら直接言ってください」
よし、噛まずに言えた。
すると小川さんと高岩さんは気まずそうに私から目を逸らし、口をモゴモゴしている。
もしかしてあの2人はやりたくないのか?井上さんが進んでやっていて、仕方なくやっているのか?
そう考えていると井上さんは舌打ちをしながら言ってきた。
「前から思ってたんだけどさ、その話し方といい、その態度といいムカつくんだよ!」
そう言いながら机の脚を蹴った。
「この前さ、あんたが余命で死ぬってことを聞いて私は嬉しかった。やっと死ぬって嬉しくて。でもそれと同時にこんな奴と1年も一緒にいるなんてめんどくさいって思って。だったらいじめで追い込んで1日でも早く自殺してくれた方が嬉しいなって」
そんなことで……?
「というかさ、なんであんたはこんなやつと仲良くしてんの?こんな自分の意見もはっきり言えないようなやつと一緒にいるより、私たちといる方が楽しいよ?」
そう言いながら花音のことを指で指す。
私の事だけならよかったけど、花音のことまで……!
すると、私が声を出して対抗するよりも早く隣から怒鳴るような声が聞こえた。
「そんなことないっ!」
私は驚いた。それはこの3人も同じだろう。
「沙奈恵はいつも人のことを考えて、自分のことより周りのことを優先してくれる!それに周りに心配かけないようにしてるいい子なの!そんな子が、あんたらなんかより一緒にいて楽しくないわけないでしょ!」
この言葉に気圧(けお)されたのか、井上さんたちは少し後ずさりする。
「と、というかあんたは今回のいじめに関係ないでしょ!引っ込んでてよ!」
「いや、関係ある。だって私は沙奈恵の友達だもん」
なんて暴論だ……。思わず苦笑する。それでも、それでこそ花音だ。
しかしこれに押されたのか井上さんは諦めたように言った。
「めんどくさ……。もういいよ、あんたらには関わらない。だからあんたらも私に関わんなよ」
そう言うと3人は教室を出ていった。
私は気が抜けたのか、急激に疲れた。花音に、
「疲れたからちょっと寝る」
と言って、自分の席に座り、机にうつ伏せになった。
近くから「私もー」と聞こえ、それと同時に背中に重みを感じた。
……いやなんで私の背中で寝てんの?
そうつっこむ気力もなく私は眠った。

その日の放課後、いつものように花音と帰る。
「今日はありがとうね」
「いや、私こそありがとう」
……どういうことだ?私が首を傾げると花音は言った。
「実は、これまでもあの子たちがいじめてるのを何回か見てたの。その度に注意しなきゃって思ってたんだけど、そのいじめられてた子が私とは関係の無い子で、なかなか勇気が出なくて……。沙奈恵が私に相談してくれなかったら私はずっと注意できなかったと思う。だからその機会をくれてありがとう…」
…そっか、そんなことが……。
「ごめんね、空気重くしちゃって……」
「いや、そんなことないよ」
私は花音を真剣に見つめる。
「なんか私が一方的に助けて貰って、申し訳なくって、でも花音が自分のやりたいことだったから嬉しくて……」
私は少し照れたように笑った。
「なんか言ってることがぐちゃぐちゃだね。今の忘れて」
「いや、忘れない、少し意地悪かもしれないけど……。沙奈恵が私のことを思ってくれて嬉しいから…」
私は笑いながら花音の肩を軽く叩く。
「もう…!忘れて!」
それにつられたのか花音も笑った。
「嫌だよー!絶対忘れないからねー!」
さっきまでの真面目な雰囲気はどこに行ったのかと言うくらい、私たちは笑いあった。