1、どうやらいじめられているようです。



次の日、教室に着くと昨日までのように静かになることはなく、騒がしいままだった。いつもはどうとも思わないけど、今はこの状態が嬉しい。

〇〇〇〇〇〇〇〇〇‪✕‬‪✕‬‪✕‬

雨の降る日が増えた6月、教室に着き自分の席に座って授業の準備を始めた。その時に異変があった。机に入れてあった教科書が何冊か無くなっていた。
周りをキョロキョロしても見つからなかったが、少し教室を歩き回ったら見つけることが出来た。だが、場所がおかしかった。ゴミ箱の後ろに隠すように置いてあった。
私は教科書を取り、埃をはらってから自分の席に戻った。
自分の席に座り周りを見ると、教室内の少し遠くに、私の方を指で指して笑っている女子3人組がいた。
確か名前は井上さん、小川さん、高岩さんだ。
面倒くさそうなことになりそうだ。そう思うとため息が出てしまう。
それを聞き逃さなかったのか花音が私の方によってきた。
「どうしたの沙奈恵?ため息なんかついちゃって」
「えっと…」
私は少し悩んだ。花音はとても正義感の強い子だ。私がされたことを言えばあの3人組に何か言ってくれるだろう。だけどそんなことすると今より面倒な事になるかもしれない。だったら言わない方がいいと思った。
「最近、雨が多くて嫌だなーって」
「確かに嫌だよねー、傘さしても制服濡れるし」
私たちはしばらく話したが、正直あまり内容は頭に入っていない。これからいじめがエスカレートしたらどうしようと不安だった。

〇〇〇〇〇〇〇〇‪✕‬‪✕‬‪✕‬‪✕‬

雨の降る日は減ってきて、逆に気温が上がってきた7月、私がいじめを誰にも話さないのを見て、どんどんエスカレートしていった。
そんなある日、花音と一緒に帰っていると、
「ねぇ、沙奈恵、最近困っていることない?」
「……いや、ないけど。どうかした?」
すると花音は呟いた。
「嘘…だよね…」
そして一度深呼吸をして言った。
「…この前偶然見たんだ。井上さんたちが沙奈恵の物を隠してるのを……。それで私、カッとなっちゃって、なんでそんなことをするの、って聞いたの。そしたら本人が困ってないんだからいいじゃん、って……」
…………。
「ねぇ!沙奈恵はあんなことされていいの?ずっとあのままでいいの?嫌ならちゃんと嫌だって言ってよ!」
その言葉で私の中の何かが吹っ切れた。
「嫌だよ!最初から嫌だったよ!それでも誰かに相談したらもっと酷くなるんじゃないかって…そう考えたら人に言えなくて……」
どんどん視界が涙で霞んでいく。
「沙奈恵……ありがとう」
……え?
すると花音がポツポツと話し出した。
「沙奈恵ってさ小さい時から自分の思ったことをなかなか人に言わなくて、それで困ったことも沢山あったじゃん。……この前、みんなに余命のことを話したとき、余命を知って悲しかった。でも沙奈恵が自分のことを話してて嬉しかった。あの時の拍手も、よく言った、よく頑張った、って意味でしてたんだ」
花音が私の方を見る。
「だから、今の『ありがとう』もちゃんと自分の思ってることを話してくれてありがとう、って」
花音は少し照れたように笑った。
「なんか言ってることがぐちゃぐちゃだけど私が言いたいのは、困った時くらいちゃんと話して、私に頼って欲しいってこと!だって私たち、友達でしょ!」
そっか……友達、これまでは深く考えなかったけど……。
「分かった……、さっそくだけど。頼らせてもらうよ花音!」
「もちろん!なんでも言ってね!」
そして、私たちは見つめあって笑った。