2、どうやら今年最高の暑さのようです。



遊ぶことになった日の朝、私は急いで準備をした。別に寝坊した訳では無い、少しテンションが高いだけだ。
服装はデニムのショートパンツに、オーバーサイズのTシャツというとてもラフな格好だ。
そして私は集合時間よりも少し早く着くように、家を出た。

「……暑くない?」
思わず独り言を呟いた。
私は予定通り少し早めに着いて花音を待つことにしていたが、とても暑く、日陰にいても汗が出てくるほどだった。
私は汗をハンカチで拭きながら周りに花音がいないか探した。
すると数メートル先に花音がいた。私は大きな声を出す。
「おーい!花音、ここだよー!」
これを聞いて花音は、私の方を見て小走りで来た。
「沙奈恵久しぶりー!」
近づきながら私に手を振ってきた。それを見て私も手を振り返す。
「久しぶり、花音。……それにしてもその服、暑くない?」
花音の服装は丈の長いワンピースに、上着を羽織っていた。
すると花音は笑顔で答えた。
「うん!少し暑い!でも、この服装が可愛いもん!」
その答えに思わず苦笑いする。
どうやら私が見た目よりも機能重視なら、花音はその逆のようだ。

私たちは最近あったことなどを話しながら、今日遊ぶショッピングモールへ歩いて行った。
そのショッピングモールは市内で1番大きく、また夏休みということもあって人が多かった。
「沙奈恵、どこかこの中で行きたいところある?」
「うーん、どうだろう?」
実は前日まではちゃんとどこに行くかの計画を2人で立てていたが、結局ノープランの方が楽しそうだよねー、ということになり、なにも考えずに来てしまった。
私がどうしようか考えていると花音が言った。
「あっ、そういえば買いたい本があるから一緒に本屋行こー」
私は頷いた。そういえば、私も買いたい本があったのを思い出した。
私たちはエスカレーターに乗り、2階に上がった。
本屋に着くと私たちは迷いなく新刊コーナーへ行った。
どうやら花音も同じ本が目的のようだ。
「まだ売っててよかった……」
花音が呟く。私たちが買おうとしていた本はかなり人気で売り切れることも多い。だけどその分入荷している量も多いようで無事に買えた。
それから本屋を出て私は言った。
「少し、洋服見ていい?私あんまり夏服持ってなくて……」
「全然いいよ!というか私がコーディネートしてあげようか?」
花音は茶化すように言ってきた。私は断ろうとしたが、少し考えてお願いした。私が選ぶといつも同じような色の服になってしまう。だったら、新しい意見を取り入れて、普段の私なら絶対選ばない服を買うのもありだと思ったからだ。
本屋の隣にあった服屋に着くと花音は早速服を持ってきた。とても明るい色で、普段青系統の服ばかり買っている私だったら絶対に選ばない服だ。
私には似合わないと思っていたが花音に言われて試着してみると、案外似合っていた。それから他の服を見たが、買ったのは花音が選んだ明るい色の服だ。理由は私にも分からない。それでも何となく今日遊んだ記念として買いたかったのだろう。
それから私たちはフードコートに行き、アイスを食べた。やはりこの時期に食べるアイスは美味しい。アイスを食べながらさっき話せなかった夏休みの思い出の続きを話した。
話に一区切りつくと、花音が言ってきた。
「アイス食べ終わったら何か2人で何か共通のもの買わない?」
急な提案で少し驚いた。
「全然いいけど、どうしたの?」
「ほら、夏休みの私と沙奈恵の思い出をなにか形に残したいじゃん!」
なるほど、確かにいいかもしれない。私は頷いた。
そして、ちまちま食べていたアイスを少し早く食べた。
私たちはフードコートを離れ、小物店に向かった。
共通のものと言っても、どういうものがいいのだろう。私は悩みながら店内を見回した。
店の商品には指輪やネックレスなどの綺麗なものから、筆箱につけても違和感のないキーホルダーなどがあった。だけど、どれも違う気がする。
しかし店内をよく見回すと1組のペンを見つけた。ペンは2本入っていて片方は明るい黄色、もう片方は落ち着いた青色。まるで私と花音をイメージしたような組み合わせだった。
どうやら隣にいた花音も同じことを思ったようで、迷いなく私たちはそのペンを買った。
その後はゲームセンターに行ってプリクラを撮ったり、新学期に向けて文房具などを見たりなど様々なことをした。

私たちがショッピングモールを出ると空はオレンジ色に染まっていた。どうやらとても長く遊んでいたようだ。しかしこの時間でもまだ少し暑い。
不意に花音が言った。
「あっ!そういえばペン、まだ渡してなかったよね?」
「確かに、充実してて忘れるところだった」
花音は大きな袋の中から2本のペンを取り出して、片方のペンを渡してきた。
しかし不思議なことに花音は私に黄色のペンを渡してきた。
「花音、ありがとう!でもこれ逆じゃない?私が青のペンで、花音が黄色のペンの方がいいと思うんだけど…」
とりあえず受け取ったが疑問を口にする。
すると花音は得意そうに言った。
「ふっふっふっ、沙奈恵は分かってないね〜。私たちが互いに逆のペンを持つことによって、いつでも相手のことを思い出せるでしょ!」
花音が言ったことに私は笑いながら言った。
「ふふっ、なにそれ、私たちのどっちかが引っ越すわけじゃないんだし。……でもいいねそういうの私好きだよ」
「でしょ!それじゃあ私はこの青色のペンを貰うね!」
それから私たちはそれぞれの家に向かって歩き出した。途中までは同じ道だから今日を振り返りながら帰った。
そして私たちが別の場所に歩く道に着いたとき花音はカバンの中から青色のペンを取り出して、私に言った。
「夏休み明け、絶対に忘れないで持ってきてね!」
私はそれに答えるように黄色のペンを取りだして言った。
「そっちこそ、忘れないで!」
私たちはそれぞれの道を進みながら、相手が見えなくなるまで手を振り続けた。