「違います」

「そうなんだ、良かったあ」

錑は安堵の表情を浮かべて私を見つめた。

「し、失礼します」

私は不覚にもドキッとしてしまった。

それからしばらくしてナースコールが鳴った。

「桂木さん、気分が悪くなりましたか?」

「いや、暇なんで話相手になってもらえないかなって思って」

どうしよう、そんな目で見つめられたらドキドキしちゃうよ。
顔が熱ってくるのを感じた。

「だ、駄目です、私仕事中なんで……」

私は急いで病室を飛び出した。
心臓がまだドキドキいってる。
ずるいよ、錑は……

この時錑は思った。
必ずみゆを取り戻すと……
錑が、私のいない人生は考えられないと、強く感じたことなど知るすべはなかった。

その頃、ゆかりさんは北山先生に連絡を入れていた。

「健志、そっちに錑は行ってる?」

「ああ、桂木社長は入院中だよ」

「やっぱり、私のところに来て、眠れないから安定剤くれって、そのあと姿くらましたのよ」