龍司は北山先生に挨拶をした。

「橘不動産社長の橘龍司と申します、みゆが大変お世話になりましてありがとうございました」

「ご丁寧にありがとうございます、当診療所の医師で北山健志です」

「みゆを東京に連れて帰りたいと思います、会計をお願いします」

「龍司、私もう東京には帰らない」

私は手の震えを抑えて下を向いて答えた。
北山先生は私の微かな変化に気づき、龍司と私の間に割って入った。

「あのう、立木さんの担当医師として、退院はまだ許可出来ません」

「みゆは何処が悪いんですか?」

「貧血と自律神経の乱れがあります」

「でしたら東京の大学病院へ転院させます」

「みゆ、会社も辞めてあいつのマンションも引っ越したんだろ?僕と東京へ帰って、一緒に暮らそう、みゆ、僕のところへ来るんだ」

龍司はそう言うと私の腕を掴み、診療所から連れ出そうとした。

「いや、東京には帰りたくない」

初めてだった、自分の気持ちをはっきり言葉にしたのは……
でもその途端急に息が苦しくなり、過呼吸に襲われた。

「立木さん、大丈夫ですか」

北山先生は私をベッドに運び処置をしてくれた。

「先生、みゆは大丈夫でしょうか?」

「過呼吸を起こしたんです、今日のところはお引き取りください」

「わかりました、また明日参ります」

龍司は診療所を後にした。