お腹の虫が鳴り始めると、一組、また一組とお客さんが入ってきた。窓の外を見てみると、薄暮の景色に変わっていた。

誠司さんがオーダーされた料理を作り始めると、店内には食欲を誘う香りが漂いはじめる。今日はビーフシチューの香りがする。

お母さんは大体夜遅くに帰ってくるから、自分で簡単に作ってしまうか、疲れている時は、スーパーのお惣菜で済ませる。

一週間の内の二日位は仕事が早く時があって、その時は必ずお母さんが夕飯を作ってくれる。

問題集がひと段落したから、おもむろににスマホを確認してみると、お母さんからLINEが来ていた。

【早く帰って来たから、先にご飯作っておくね】
【言い忘れてたけど、今日お母さんの弟が泊まりにくるよ】

やっぱり言い忘れていたんだ。

私が【今一緒にいるよ】って送ったら、間髪入れずに

【うそ⁉︎】
【何で】

って返ってきた。

説明するのが面倒だったから【カフェで偶然会った。今から帰ります】って簡単に返しておいたら

【せっかくだから連れてきて】
【夕飯一緒に食べるでしょって言っておいて】

って。お母さん、茂さんの扱いちょっと雑じゃない?



「あの、茂さん。さっきお母さんからLINEがあって、一緒に帰っておいでって言っていました。それと、夕飯も作って待ってるみたいです」



ノートパソコンを広げて集中している茂さんに話しかけるのは悪いなと思いながらも、私はお母さんからの任務を遂行した。



「ありがとう。じゃあ、せっかくだからお家まで案内してもらえる?」

「あ、はい、もちろんです。そろそろ帰ろうと思うのですが、大丈夫ですか」

「大丈夫だよ。郁江さん、お会計お願いします」

「はーい!ちょっと待ってて」



郁江さんが料理をお客さんのところに持って行ってから、小走りでレジカウンターの方に来てくれた。

それに気づいた誠司さんは、お客さんが注文た料理をお皿に盛り付けながら「二人とも気を付けてね」と言ってくれた。