まやくんが消えてしまった後も、私は夏休みが終わる直前まで茂さんのところにいて、一緒に民宿の準備を手伝っていた。
曖瑠さんの後にも、何人か泊まりに来たけど、次第に最初の頃に味わった緊張感は、もうすっかり無くなっていて、それどころか、来訪者の人の話を聞くのが楽しみになっていた。
夏休みが終わって二学期最初の教室は、久しぶりの再会に喜ぶ友達や旅行のお土産渡しに勤しむ人で教室が賑わっていた。
言うまでもなく、その雰囲気に溶け込めない私からすれば、このイベントはただの他人事だった。
そう、今までは。
雑音とさえ思っていたはずなのに、再会を喜ぶクラスメイトの楽しそうな話し声が聞こえると、なぜか私まで楽しくなってきた。
「一ノ瀬さん、おはよー」
「え、あ、おはよう」
不意を突かれたように、クラスメイトの小柳さんが通りすがりに私に挨拶をした。
まさか声をかけられるなんて思ってもいなかったから、不意打ち気味だったけれど、それ以上に驚いたのは、まるでいつもの事のように振る舞えた私自身に対してだった。
どういうわけか、いつもより、視界も広い。
なんて思っていると、クラスの主役でもある私の友達がやってきた。
「おっはよー!みんな久しぶりー!」
絵里ちゃんがいつもの二割増しであろうテンションを振り回しながら教室に入ってくる。
男子達に「朝からうるせー」なんて笑われているけれど、当の本人は全く気にもせず、それどころかくるっと回って流行りのピースサインなんて返している。
その後絵里ちゃんは賑やかな雰囲気を纏ったまま流れるように私に挨拶をしながら自分の席に着くと、不思議そうに私の顔をじいっと見つめて、
「沙希、なんか雰囲気変わった?」
と言った。
そう言えば、茂さんのところから帰ってきた時にもお母さんに同じことを言われたっけ。
「そんなことないよ。あ、でも日焼けはしたかも」
「そうじゃなくてさー」
あからさまに見当違いな返事を返すと、絵里ちゃんは目を細めながらじーっと睨みつけてきた。
我慢できなくなった私は、少しだけ顔を引く。近い近い近い。
「あ!沙希!もしかして彼氏でもできたとか!」
「ち、違うって!」
「ちえっ。つまんねー」
つまんなくてごめんなさい。って、何を謝ってるんだろう、私は。
絵里ちゃんは「うーんなんでなろう」と一人でぶつぶつ言いながら筆記用具を引き出しの中に突っ込んでいる。
「絵里ちゃん」
「ほえ?」
私に話しかけられるのがよっぽど珍しいことだったのか、絵里ちゃんは軽く驚いていた。
「今日さ、一緒に帰らない?」
「まさか沙希からそんなこと言われるなんて……!どうした?悩み事でもあるの?」
「そんなんじゃないよ。絵里ちゃんと、もっと話したいだけ」
そう。
何でもない。
ただ、一緒に帰りたいだけなんだ。
そんな我儘みたいなことを、友達に言ってみたくなったんだ。
そしたら絵里ちゃんは「……なにそれ可愛いかよ!」と言いながら、突然襲いかかってきて、抱き枕のようにぎゅうぎゅうと私を抱き締めている絵里ちゃんに突っ込みを入れるように小柳さんが来て、それに便乗するように後ろに席にいた野田さんも私達の輪の中に入ってきて、
私達は意味も無く、ただ、ただ笑い合った。
完
曖瑠さんの後にも、何人か泊まりに来たけど、次第に最初の頃に味わった緊張感は、もうすっかり無くなっていて、それどころか、来訪者の人の話を聞くのが楽しみになっていた。
夏休みが終わって二学期最初の教室は、久しぶりの再会に喜ぶ友達や旅行のお土産渡しに勤しむ人で教室が賑わっていた。
言うまでもなく、その雰囲気に溶け込めない私からすれば、このイベントはただの他人事だった。
そう、今までは。
雑音とさえ思っていたはずなのに、再会を喜ぶクラスメイトの楽しそうな話し声が聞こえると、なぜか私まで楽しくなってきた。
「一ノ瀬さん、おはよー」
「え、あ、おはよう」
不意を突かれたように、クラスメイトの小柳さんが通りすがりに私に挨拶をした。
まさか声をかけられるなんて思ってもいなかったから、不意打ち気味だったけれど、それ以上に驚いたのは、まるでいつもの事のように振る舞えた私自身に対してだった。
どういうわけか、いつもより、視界も広い。
なんて思っていると、クラスの主役でもある私の友達がやってきた。
「おっはよー!みんな久しぶりー!」
絵里ちゃんがいつもの二割増しであろうテンションを振り回しながら教室に入ってくる。
男子達に「朝からうるせー」なんて笑われているけれど、当の本人は全く気にもせず、それどころかくるっと回って流行りのピースサインなんて返している。
その後絵里ちゃんは賑やかな雰囲気を纏ったまま流れるように私に挨拶をしながら自分の席に着くと、不思議そうに私の顔をじいっと見つめて、
「沙希、なんか雰囲気変わった?」
と言った。
そう言えば、茂さんのところから帰ってきた時にもお母さんに同じことを言われたっけ。
「そんなことないよ。あ、でも日焼けはしたかも」
「そうじゃなくてさー」
あからさまに見当違いな返事を返すと、絵里ちゃんは目を細めながらじーっと睨みつけてきた。
我慢できなくなった私は、少しだけ顔を引く。近い近い近い。
「あ!沙希!もしかして彼氏でもできたとか!」
「ち、違うって!」
「ちえっ。つまんねー」
つまんなくてごめんなさい。って、何を謝ってるんだろう、私は。
絵里ちゃんは「うーんなんでなろう」と一人でぶつぶつ言いながら筆記用具を引き出しの中に突っ込んでいる。
「絵里ちゃん」
「ほえ?」
私に話しかけられるのがよっぽど珍しいことだったのか、絵里ちゃんは軽く驚いていた。
「今日さ、一緒に帰らない?」
「まさか沙希からそんなこと言われるなんて……!どうした?悩み事でもあるの?」
「そんなんじゃないよ。絵里ちゃんと、もっと話したいだけ」
そう。
何でもない。
ただ、一緒に帰りたいだけなんだ。
そんな我儘みたいなことを、友達に言ってみたくなったんだ。
そしたら絵里ちゃんは「……なにそれ可愛いかよ!」と言いながら、突然襲いかかってきて、抱き枕のようにぎゅうぎゅうと私を抱き締めている絵里ちゃんに突っ込みを入れるように小柳さんが来て、それに便乗するように後ろに席にいた野田さんも私達の輪の中に入ってきて、
私達は意味も無く、ただ、ただ笑い合った。
完