「そういえば、これが手紙の中に入っていたんですけど」



茂さんは白くて鳥のような小さな花びらを丁寧に受け取り、しばらくじいっと見つめる。



「これは鷺草だね。確か花言葉は……うん、なるほど」

「どうしたんですか?」

「鷺草の花言葉は『清純』『繊細』『夢でもあなたを想う』なんだ。いやあ、まやくんらしい伝え方だなあ」



気になってすぐにスマホで花言葉を調べてみる。

花言葉の由来には、悲しい伝説があった。

でも、その話の背景には、相手を思いやる純粋な気持ちも含まれていた。

まやくんも私と同じ気持ちだったのかもしれない。

そう思うと、また涙が止まらなくなった。







次の日、私はもう一度あの神社に行ってみることにした。

茂さんが「着いて行こうか」と言ってくれたけど、どうしても一人で言ってみたくなったから、申し訳ないと思いながら、お断りした。

蝉の鳴き声に圧倒されながらも、境内へと続く階段を一段一段と登っていく。

後遺症はすぐに解消されるわけではなく、やっぱり慰霊碑の方を見ると、私の身体があの出来事を受け入れるのを拒否しているようで、再び胃の底の方がむかむかしてきた。

でも、ここで逃げちゃいけないと思った。

ここは忘れちゃいけない大切な場所だから。



大丈夫。



目を瞑って大きく深呼吸をし、ゆっくり目を開ける。
 
私は慰霊碑に花を添え、静かに手を合わせた。