「それじゃ、また明日」

「バイバイ」

夏休み前の最後の授業が終わるチャイムが鳴り終わると、絵里ちゃんは朝に落としていたプリントを持って慌ただしく職員室に行ってしまった。

ボランティア部の集まりで計画表を配らなきゃいけないらしく、今からコピーしにいくんだとか。今から行って集合時間に間に合うのかな。

できれば今日は絵里ちゃんと一緒に帰りたかったけどしょうがない。私と違って忙しい人だから。なんて、わざわざ考えなくても良いことを考えて勝手に落ち込む私は本当に面倒臭い人間だ。

学校は街から少し離れたところにあるため、ほとんどの人は上りの電車に乗って帰る。もちろん私の家もみんなと同じ方向にある。

六時間目の授業が終わってすぐに下校したから、もしかして私が一番乗りではと思ったけれど、既に駅のホームには同じ制服を着た生徒で混み合っていたからげんなりした。

ホームには、スマホの画面を見ながら友達と話している人か、一人でスマホの画面と睨めっこしている人、あとはスマホを横に持って指を器用に動かしている人がいた。

なんかすごい光景だなと思ったけれど、当然私もその中の一人に過ぎないわけで。

地べたに座って大声で話している子達には、目をつけられないように気を付けなければいけない。

誰にも気付かれないように気を付けながら私は下りのホームに降りる。

色褪せたベンチにはおばあさんが一人で座っているだけだった。私は駅名標に隠れて電車が来るのを待った。

幸い電車はすぐに来た。自分だけみんなと違う方向に向かうことが、後ろめたいけれど、心地良くもあった。

鞄からお気に入りの文庫本を取り出して続きを読もうとしたけれど、二、三ページほど読み進めたらすぐに睡魔が襲ってきたからやめた。

『ご乗車ありがとうございます。次の駅は、汐丘ーー』

夢現で外の景色を見ていると、目的地である七番目の駅名がアナウンスされた。

ホームは至る所に割れ目があり、その隙間からは細い茎の雑草が太陽めがけて一直線に伸びていた。

小さくて可愛い花を咲かせているのもあったから、私はカバンの中に手を突っ込んでミラーレスカメラを取り出し、シャッターボタンを押す。

古びたレールの上には椋鳥が羽を休めていたから、びっくりさせないようになるべくそうっと近付き、パシャリ。

シャッター音に驚いた椋鳥は迷惑そうにチチチッと鳴きながらどこかに飛んでいってしまった。驚かせてしまってごめんなさい。

汐丘駅に来ると、何もかもから解放されたような気分になるから不思議だ。

そんな時は自然と心を打つものを見つけて、写真に収めたくなる。それが楽しくてしょうがないし、そんな時は良い写真が撮れる。

無人の改札口を通って駅の外に出ると、ほとんどがシャッターが降ろされている商店街に出る。

決して人通りは多くないけれど、意外とカップルが多く、活気があるようにも見える。

駅は小高い丘の上にあるため、短い通りを抜けると、一気に景色がひらける。

海が見える時々潮の香りがしてくるので、汐丘という名前なのだろう。前にスマホで調べてみたら、どうやら最近はここ一体がデートスポットになっているらしい。

そして私は目的地に到着した。