茂さんは空き家に隠れている僕に気が付くと、大分驚いていた。
茂さんはすぐに救急車を呼ぼうとしたけれど、僕は頑なに拒むと、追い出すことも通報することもせず、一呼吸置いてから、持っている水と食べ物を与えてくれた。
その後も、茂さんは僕が動けるようになるまでずっと介抱してくれた。あの時茂さんがいなかったら、きっとまた死んでしまっていただろう。
僕が元気になると、茂さんは「僕もこの家に住んでも良いかい」と、照れ笑いを浮かべながら言った。
変な人だなあと思ったけれど、怪しい人ではなさそうだし、何より命の恩人でもあるから僕は快諾した。
それに、思ったんだ。
この人なら、たとえ裏切られても構わないと。
茂さんはゴミも散乱してボロボロの潰れかけたこの家を、毎日少しずつ修復していた。
不要なものを処分したり、抜けかけた床を張り替えたり、剥がれかけた壁面を修理したりと、少しでも快適に過ごせるように工夫していた。
最初はただ見ているだけだったけれど、一人で作業をしていたのが大変そうだったから、次第に手伝うようになった。
茂さんは何でも知っているという訳ではなくて、関係ない柱を切ってしまったり、間違って壁に穴を開けてしまったりと、時々かなりのヘマをする。
でも、何か問題にぶつかる度に、持って来た本で勉強したり、パソコンで動画を見たりしていた。
僕が興味深そうに画面を覗いたら「使ってみる?」って言って、使い方を教えてくれた。
それ以来、僕は動画を見ながら何かを学ぶことに夢中になったんだ。釣った魚の捌き方とか、作物の育て方とか、パソコンを使えば何でも学ぶことができる。
知ることが、とにかく楽しかった。
いくつかの部屋が綺麗になって、ある程度住める状態になったら、茂さんは何人かの友達を連れてきた。
その内の一人、アイルーという女の人は、絵描きさんらしく、この辺りの景色をたくさんスケッチしていた。
景色の絵を描き飽きたのか、そのうち僕の絵を描きたいと言い始めた。
あまり気乗りしなかったけれど、誰にも見られない部屋で描くのならと承諾した。
言われるがまま、色んなポーズをさせられてしまった僕は、カーテンのない部屋だったから、運悪く通りすがりの人に見られてギョッとされてしまったのは、あまり思い出したくないトラウマだ。
部屋がすっかり綺麗になった頃、茂さんがここを民宿にしたいと言い始めた。
正直見知らぬ人が来るのはちょっと苦手だと思ったけれど、おそらく茂さんはそれを見越してこの家に住み始めたんだと思うから、僕の個人的な理由でそれを却下することはしたくはなかったから賛成しておいた。
でも、茂さんは出張が増えてしまって、なかなか思うように民宿事業を進めることができなかった。
茂さんも、できる時に少しづつ進めようというスタンスだったと思う。
そして、茂さんが沙希を連れてきた。
正直もう会えないんじゃないかって諦めかけていたから、まさかと思った。
この長い間できっといろんなことがあったんだろう。初めて会った沙希は、少し怯えたような顔をしていた。
もちろん初めは心配になったけれど、一緒に過ごしていると、ちょっと天然なところや、意外と勇敢なところが見えてきて、僕は安心した。
沙希は沙希なりに、しっかり生きて来たんだと、確かに思った。
もうこれで、大丈夫だ。
僕の役目は、終わった。
沙希、生きててくれて本当にありがとう。
茂さんはすぐに救急車を呼ぼうとしたけれど、僕は頑なに拒むと、追い出すことも通報することもせず、一呼吸置いてから、持っている水と食べ物を与えてくれた。
その後も、茂さんは僕が動けるようになるまでずっと介抱してくれた。あの時茂さんがいなかったら、きっとまた死んでしまっていただろう。
僕が元気になると、茂さんは「僕もこの家に住んでも良いかい」と、照れ笑いを浮かべながら言った。
変な人だなあと思ったけれど、怪しい人ではなさそうだし、何より命の恩人でもあるから僕は快諾した。
それに、思ったんだ。
この人なら、たとえ裏切られても構わないと。
茂さんはゴミも散乱してボロボロの潰れかけたこの家を、毎日少しずつ修復していた。
不要なものを処分したり、抜けかけた床を張り替えたり、剥がれかけた壁面を修理したりと、少しでも快適に過ごせるように工夫していた。
最初はただ見ているだけだったけれど、一人で作業をしていたのが大変そうだったから、次第に手伝うようになった。
茂さんは何でも知っているという訳ではなくて、関係ない柱を切ってしまったり、間違って壁に穴を開けてしまったりと、時々かなりのヘマをする。
でも、何か問題にぶつかる度に、持って来た本で勉強したり、パソコンで動画を見たりしていた。
僕が興味深そうに画面を覗いたら「使ってみる?」って言って、使い方を教えてくれた。
それ以来、僕は動画を見ながら何かを学ぶことに夢中になったんだ。釣った魚の捌き方とか、作物の育て方とか、パソコンを使えば何でも学ぶことができる。
知ることが、とにかく楽しかった。
いくつかの部屋が綺麗になって、ある程度住める状態になったら、茂さんは何人かの友達を連れてきた。
その内の一人、アイルーという女の人は、絵描きさんらしく、この辺りの景色をたくさんスケッチしていた。
景色の絵を描き飽きたのか、そのうち僕の絵を描きたいと言い始めた。
あまり気乗りしなかったけれど、誰にも見られない部屋で描くのならと承諾した。
言われるがまま、色んなポーズをさせられてしまった僕は、カーテンのない部屋だったから、運悪く通りすがりの人に見られてギョッとされてしまったのは、あまり思い出したくないトラウマだ。
部屋がすっかり綺麗になった頃、茂さんがここを民宿にしたいと言い始めた。
正直見知らぬ人が来るのはちょっと苦手だと思ったけれど、おそらく茂さんはそれを見越してこの家に住み始めたんだと思うから、僕の個人的な理由でそれを却下することはしたくはなかったから賛成しておいた。
でも、茂さんは出張が増えてしまって、なかなか思うように民宿事業を進めることができなかった。
茂さんも、できる時に少しづつ進めようというスタンスだったと思う。
そして、茂さんが沙希を連れてきた。
正直もう会えないんじゃないかって諦めかけていたから、まさかと思った。
この長い間できっといろんなことがあったんだろう。初めて会った沙希は、少し怯えたような顔をしていた。
もちろん初めは心配になったけれど、一緒に過ごしていると、ちょっと天然なところや、意外と勇敢なところが見えてきて、僕は安心した。
沙希は沙希なりに、しっかり生きて来たんだと、確かに思った。
もうこれで、大丈夫だ。
僕の役目は、終わった。
沙希、生きててくれて本当にありがとう。