私は、まやくんと一緒にさと子さんの家にお米を貰いに行くことにした。
さと子さんの家は、お米も作っている農家もしていて、定期的にそこからお米を買っている。
たまに買い出しの際に立ち寄るスーパーの方が安く売っているのだけれど、なるべく地元にお金を落としたいと考えている茂さんは、多少高くても、さと子さんの家から買っている。
と言っても、家にはまやくんくらいしかいないから、半年に一回三十キロ程まとめ買いをするくらいで事足りるんだとか。
まやくんに引っ張られているリアカーは、空気の抜けかけているタイヤのせいで、ゴロゴロと鈍い音を立てている。少しでも力になれればと思って後ろから押すけれど、役に立っているとは言い難い。
ちらほらと海沿いに民家が見え始めると、再び懐かしいような感覚になった。
私、もしかしてここに来たことが、ある……
「沙希さん?」
「あ、ううん、何でもない」
懐かしいような、寂しいような、そんな気がして、気が付くと私の足は止まっていた。
「大丈夫?」
やっぱり私の押す力が弱かったみたいで、まやくんは気付かずに進んでいたけれど、途中で気配が無くなったのを感じたのか、すぐに戻ってきてくれた。
真面目な顔してリアカーの中に入ることを勧めてくれたけれど、さすがに恥ずかしいから、丁寧にお断りした。
「ちょっと休憩しようか」
少し進んだ先に神社への入り口があったから、境内へと続く階段に座って休憩することにした。
※
……あれ?
気が付くと、目の前にいるのはまやくんは、小さな男の子に変わっていた。
暑さで頭がやられてしまったのだろうか。とりあえず落ち着こうと深呼吸を試みるも、身体が言うことを聞かない。
右手に持っている水色のアイスはきっとソーダ味だろうを持っていて、その手も幼いように見える。
言うことを聞かない私の身体は、足元にぽたりと落ちたアイスの水滴を気にも止めずにスクッと立ち上がると、男の子を追いかけるように階段を一気に駆け上がった。
境内へ辿り着いた私達は、本殿の隣にある小さな小屋の中に入って行った。
※
「……さん!沙希さん!」
耳の奥からまやくんの声が聞こえてきた。さっきのは、夢か幻覚だったのだろうか。でも……
「大丈夫?さっきから」
「まやくん、この先って、小さい小屋みたいな建物があるよね」
「……どうしてそれを」
まやくんが言いかけたところで、私は一気に階段を駆け上がった。あれは、きっと失っていた過去の記憶に違いない。
私はきっと小さい頃、ここに住んでいた。
隣にいた男の子は、きっと幼馴染みだ。
アイスを持っている右手には痣がなかった。
だからこれは、痣ができる前の記憶。
思い出せることが、こんなに嬉しいとは思わなかった。
このまま記憶を辿れば、どうして痣ができたのかも、きっとわかるはず。
小屋の中に行けば、きっとまた何か思い出せるはず。
階段を登り切った先には、やっぱり思った通り、立派な本殿があった。
全速力で階段を駆け上がったから、私の身体は肩で息をしていたけれど、もうそんなのはどうでも良かった。
あそこに、小屋が……
……。
え……?
なんで……。
本殿の隣には、小屋ではなく、小さな慰霊碑がポツリと建てられているだけだった。
「……うっ……ぇ……」
一気に階段を駆け上がった反動が来たのか、慰霊碑を見たからかわからないけれど、急に激しい吐き気が襲ってきた。
「沙希!」
まやくんは、その場にしゃがみ込んでえずく私を抱きかかえると、木陰のあるベンチに運んでくれた。
なすすべなくベンチに横たわる私は、しばらく力尽きたように目を瞑る。
木の葉が風に揺られている。直射日光が当たらないこの場所は、随分と涼しく感じた。
さと子さんの家は、お米も作っている農家もしていて、定期的にそこからお米を買っている。
たまに買い出しの際に立ち寄るスーパーの方が安く売っているのだけれど、なるべく地元にお金を落としたいと考えている茂さんは、多少高くても、さと子さんの家から買っている。
と言っても、家にはまやくんくらいしかいないから、半年に一回三十キロ程まとめ買いをするくらいで事足りるんだとか。
まやくんに引っ張られているリアカーは、空気の抜けかけているタイヤのせいで、ゴロゴロと鈍い音を立てている。少しでも力になれればと思って後ろから押すけれど、役に立っているとは言い難い。
ちらほらと海沿いに民家が見え始めると、再び懐かしいような感覚になった。
私、もしかしてここに来たことが、ある……
「沙希さん?」
「あ、ううん、何でもない」
懐かしいような、寂しいような、そんな気がして、気が付くと私の足は止まっていた。
「大丈夫?」
やっぱり私の押す力が弱かったみたいで、まやくんは気付かずに進んでいたけれど、途中で気配が無くなったのを感じたのか、すぐに戻ってきてくれた。
真面目な顔してリアカーの中に入ることを勧めてくれたけれど、さすがに恥ずかしいから、丁寧にお断りした。
「ちょっと休憩しようか」
少し進んだ先に神社への入り口があったから、境内へと続く階段に座って休憩することにした。
※
……あれ?
気が付くと、目の前にいるのはまやくんは、小さな男の子に変わっていた。
暑さで頭がやられてしまったのだろうか。とりあえず落ち着こうと深呼吸を試みるも、身体が言うことを聞かない。
右手に持っている水色のアイスはきっとソーダ味だろうを持っていて、その手も幼いように見える。
言うことを聞かない私の身体は、足元にぽたりと落ちたアイスの水滴を気にも止めずにスクッと立ち上がると、男の子を追いかけるように階段を一気に駆け上がった。
境内へ辿り着いた私達は、本殿の隣にある小さな小屋の中に入って行った。
※
「……さん!沙希さん!」
耳の奥からまやくんの声が聞こえてきた。さっきのは、夢か幻覚だったのだろうか。でも……
「大丈夫?さっきから」
「まやくん、この先って、小さい小屋みたいな建物があるよね」
「……どうしてそれを」
まやくんが言いかけたところで、私は一気に階段を駆け上がった。あれは、きっと失っていた過去の記憶に違いない。
私はきっと小さい頃、ここに住んでいた。
隣にいた男の子は、きっと幼馴染みだ。
アイスを持っている右手には痣がなかった。
だからこれは、痣ができる前の記憶。
思い出せることが、こんなに嬉しいとは思わなかった。
このまま記憶を辿れば、どうして痣ができたのかも、きっとわかるはず。
小屋の中に行けば、きっとまた何か思い出せるはず。
階段を登り切った先には、やっぱり思った通り、立派な本殿があった。
全速力で階段を駆け上がったから、私の身体は肩で息をしていたけれど、もうそんなのはどうでも良かった。
あそこに、小屋が……
……。
え……?
なんで……。
本殿の隣には、小屋ではなく、小さな慰霊碑がポツリと建てられているだけだった。
「……うっ……ぇ……」
一気に階段を駆け上がった反動が来たのか、慰霊碑を見たからかわからないけれど、急に激しい吐き気が襲ってきた。
「沙希!」
まやくんは、その場にしゃがみ込んでえずく私を抱きかかえると、木陰のあるベンチに運んでくれた。
なすすべなくベンチに横たわる私は、しばらく力尽きたように目を瞑る。
木の葉が風に揺られている。直射日光が当たらないこの場所は、随分と涼しく感じた。