「おう!まやっち!来てくれたんだ!」

「アイルーのことだから、熱中しすぎて帰れなくなったんじゃないかと思って」



靴の裏がぐちゃぐちゃになりながら、辛うじて裏島から脱出に成功した私達を迎えてくれたまやくんは、大きなリアカーを引いて来ていた。

その中にある丈の長い長靴二足と、三本のスポーツドリンクは、来る時の段差で飛び跳ねたのだろう、無造作に散らばっている。

裏島に歩いて行くには、天候と潮が引く時間が一致した時に現れるこの自然の遊歩道を使うか、小型のボートが必要らしい。

行きの時に見かけた天然の道が現れるのは、今の季節の決まった時間だけで、かなり珍しいものだと教えてくれた。

しかも遊歩道は数時間で水没してしまう。

と言っても、仮に水没してしまっても、すぐに水深が深くなることはないから、丈の長い長靴を履いて渡れば濡れずに脱出できる。

それなら裸足になって渡っても良いのではと思ったけど、この炎天下の中わざわざ私たちの分を持って来てくれるまやくんの優しさは、しっかりと受け取っておこうと、心の中で決めた。



「そうなったら沙希ちゃんと裏島でお泊まりするから大丈夫だ!な!」



クロを抱き抱えた曖瑠さんは、私に同意を求める。

この人なら本当にやりかねない。

いや、この人と一緒なら案外楽しく過ごせるかもしれない。



「なに言ってんの。沙希さんを巻き込まないでくれる」

「あれか!まやっちは大事な大事な沙希ちゃんが心配になって迎えに来たんだな!」

「い、いや、さと子さんのところに用事があったから、そのついでというか……とにかく!無事だったならもう良い!」

「そうかそうか!お前も可愛いやつだな!」



投げやりに返すまやくんを弄んでいる曖瑠さんは、相変わらず悪戯っぽい笑みを浮かべている。

まやくんはしかめっ面をしているけれど、本心から毛嫌いしているわけではなさそうだ。

むしろ曖瑠さんを信頼しているからこそ、こういう態度をしているんだと思う。

曖瑠さんは抱いていたクロを私に押し付けると、

「じゃ、あたしはほかにもスケッチしたいところがあるから!まやっち!頑張れよ!」

 と言って、向かいの山の方に行ってしまった。



「う、うるさい!暗くなる前に帰ってくるんだぞ!」



 まやくんは振り返りもせずヒラヒラと右手を振る曖瑠さんに「まったく、もう!」と溜息を吐いた。

根が優しい二人のやりとりが終わってしまって、少し残念だと思った。