「ただいまー」
「お帰りなさい」
止まったままの宿題が終わる頃、両手に大根を抱えたまやくんが帰ってきた。もう説明されなくてもわかる。きっとおじいさんにお礼としてもらったのだろう。
汗だくになったまやくんはしばらく床に座り込んでしまったから、私は冷蔵庫から冷えた麦茶をコップに注いで手渡した。
キンキンに冷えているものを一気に胃の中に流し込んでお腹を壊さないかちょっと心配になったけれど、当の本人はそんなこと気にもしていないようだったから、私はまやくんの胃腸を信じることにした。
「ありがと。流石に大根を抱えてこの距離を歩くのはきつかった……」
ぐでんと仰向けに寝転んでしまったまやくんを、下敷きで扇いであげる。
「さと子さんの家ってどこにあるの?」
「隣の集落」
「そ、そんなに遠くから?」
さと子さんって、私より体力があるのでは。
「さと子さんって、どんな巫女さんだったの?」
「わかんない。だけど、昔はさと子さんの話を聞きに遠くからも人が来ていたらしいから、相当凄い人だったんじゃないかな。今は花好きのおばあちゃんって感じだけど」
わざわざ遠いところから毎回この家に来るなんて、よほど思い入れがあるのではないだろうか。それとも……
「さと子さんって、まやくんに会うために来ているんじゃないかな」
「うーん、どうだろう」
「だってまやくんのことを生き神様って言って崇拝しているし」
うっすらと目を開けたままぼんやりと天井を見つめているまやくんは、急に真剣な眼差しで私の顔を見つめた。
「あのさ」
「どうしたの?」
「僕がもし本当に生き神、いや、幽霊だとしたら、引く?」
「え……」
突拍子のないことを聞かれると、人は思考が停止する。
私とまやくんは、じいっと見つめ合ったまま、数秒間時が止まった。
「嘘、冗談。急に変なこと言ってごめん」
まやくんは沈黙を打破するためにふにゃりと表情を崩した。
でも、私の思考は停止したままだった。
大抵の人は、冗談のつもりだったり、嘘が混じったりしていると、発する言葉に違和感が混ざるから何となくわかる。
けれど、まやくんの言葉にはそれが含まれていなくて、そのまま真っ直ぐに飛んできた。
多分、嘘ではない。
いや、仮に嘘だとしても、何らかの理由があるはず。
だから、きちんと私なりの考えを返すべきだと思った。
「私は……例え幽霊でも神様でも、引かない、と思う。まやくんは、まやくんだから」
答えになっているのかわからない精一杯の答えを聞いたまやくんは、噛み締めるように「そっか」と言って、ゆっくりと起き上がった。
目元が少し赤くなっているような気がしたけれど、すぐに向こうを向いてしまったからよくわからなかった。
「うん、やっぱり沙希さんだ」
「え?」
時折り見せるまやくんの隠し事は、どうも私が深く関わっているような気がする。
もちろん気になる気持ちはあるけれど、それこそ昨日まやくんが言っていたように、その時が来るまで聞かない方が良いような気もしたから「ううん、何でもない。そろそろお昼にしますか」という言葉に同意した。もうそんな時間だったんだ。
「私も手伝う」
「宿題は大丈夫?」
「うん、今日の分は終わったから平気」
台所に行くと、貰ったのは良いものの、この大量の大根をどう調理しようかという問題に直面した。
でも、こういう時はスマホで「大根 料理 お昼」と検索すると、あっという間にたくさんのレシピが出て来てすぐに解決した。
まやくんはやけに関心していたから「もしかしてスマホ持ってないの」と聞いたら、真顔で首を縦に振ったから、これも田舎だからかと、無理矢理解釈した。
「お帰りなさい」
止まったままの宿題が終わる頃、両手に大根を抱えたまやくんが帰ってきた。もう説明されなくてもわかる。きっとおじいさんにお礼としてもらったのだろう。
汗だくになったまやくんはしばらく床に座り込んでしまったから、私は冷蔵庫から冷えた麦茶をコップに注いで手渡した。
キンキンに冷えているものを一気に胃の中に流し込んでお腹を壊さないかちょっと心配になったけれど、当の本人はそんなこと気にもしていないようだったから、私はまやくんの胃腸を信じることにした。
「ありがと。流石に大根を抱えてこの距離を歩くのはきつかった……」
ぐでんと仰向けに寝転んでしまったまやくんを、下敷きで扇いであげる。
「さと子さんの家ってどこにあるの?」
「隣の集落」
「そ、そんなに遠くから?」
さと子さんって、私より体力があるのでは。
「さと子さんって、どんな巫女さんだったの?」
「わかんない。だけど、昔はさと子さんの話を聞きに遠くからも人が来ていたらしいから、相当凄い人だったんじゃないかな。今は花好きのおばあちゃんって感じだけど」
わざわざ遠いところから毎回この家に来るなんて、よほど思い入れがあるのではないだろうか。それとも……
「さと子さんって、まやくんに会うために来ているんじゃないかな」
「うーん、どうだろう」
「だってまやくんのことを生き神様って言って崇拝しているし」
うっすらと目を開けたままぼんやりと天井を見つめているまやくんは、急に真剣な眼差しで私の顔を見つめた。
「あのさ」
「どうしたの?」
「僕がもし本当に生き神、いや、幽霊だとしたら、引く?」
「え……」
突拍子のないことを聞かれると、人は思考が停止する。
私とまやくんは、じいっと見つめ合ったまま、数秒間時が止まった。
「嘘、冗談。急に変なこと言ってごめん」
まやくんは沈黙を打破するためにふにゃりと表情を崩した。
でも、私の思考は停止したままだった。
大抵の人は、冗談のつもりだったり、嘘が混じったりしていると、発する言葉に違和感が混ざるから何となくわかる。
けれど、まやくんの言葉にはそれが含まれていなくて、そのまま真っ直ぐに飛んできた。
多分、嘘ではない。
いや、仮に嘘だとしても、何らかの理由があるはず。
だから、きちんと私なりの考えを返すべきだと思った。
「私は……例え幽霊でも神様でも、引かない、と思う。まやくんは、まやくんだから」
答えになっているのかわからない精一杯の答えを聞いたまやくんは、噛み締めるように「そっか」と言って、ゆっくりと起き上がった。
目元が少し赤くなっているような気がしたけれど、すぐに向こうを向いてしまったからよくわからなかった。
「うん、やっぱり沙希さんだ」
「え?」
時折り見せるまやくんの隠し事は、どうも私が深く関わっているような気がする。
もちろん気になる気持ちはあるけれど、それこそ昨日まやくんが言っていたように、その時が来るまで聞かない方が良いような気もしたから「ううん、何でもない。そろそろお昼にしますか」という言葉に同意した。もうそんな時間だったんだ。
「私も手伝う」
「宿題は大丈夫?」
「うん、今日の分は終わったから平気」
台所に行くと、貰ったのは良いものの、この大量の大根をどう調理しようかという問題に直面した。
でも、こういう時はスマホで「大根 料理 お昼」と検索すると、あっという間にたくさんのレシピが出て来てすぐに解決した。
まやくんはやけに関心していたから「もしかしてスマホ持ってないの」と聞いたら、真顔で首を縦に振ったから、これも田舎だからかと、無理矢理解釈した。