居座ってもらわれるのが嫌という訳ではないけれど、いつまでも隣で座っていられるとこちらも落ち着かない。
「あの、さと子さんをこのままにしていて大丈夫?」
「そのうち旦那さんが迎えに来るから、心配しなくていいよ」
よかった。ちゃんとお迎えに来るのなら大丈夫だ。
「さと子さんは僕らがしていることの邪魔をするつもりはないから、話すのが嫌だったら何かをしていたらいいよ。もし一人の方がよかったら良かったら二階に行ってても良いし」
まやくんは、まるでさと子さんがいるのが普通であるかのように、隣の部屋から本を数冊持ってきて、囲炉裏の机に座りはじめた。
私だけ二階に行くのはなんだか悪いような気がしたし、さと子さんのことも少し気になった。ちょっとだけなら、話してみるのも悪くないかも。
なんて考えていた私は、すぐに後悔した。
「あんた、腕どした?」
迂闊だった。朝からパーカーを着ていなかった私はすっかり油断していた。
「あ、いや、これは……」
「いつそんな火傷したん?」
「あ、これは……痣……なんです」
「痣やない。私にはわかる。これは火傷や」
もう火傷でも痣でもどっちでも良い。
私は反射的に自虐的な言葉で身を守ろうとする。
「変……ですよね」
「変て、別に変なことあるかいな」
何ふざけたこと言ってるのこの子はという勢いで言われたから、ちょっとびっくりした。
その後さと子さんは私の手をぎゅっと握る。
「あんた、この腕のせいでいっぱい嫌な思いしたんちゃう?そんなん気にせんと、堂々としとったら良いんよ。こんだけ火傷したのに、よう無事で生きとったなあ……もう一人は……」
その言葉の意味はわからなかったけれど、さと子さん目にチラリと光るものが見えて、本気でそう思っているのが伝わってきた。
歯に衣着せない物言いが苦手だと思ったけれど、人生経験豊富なさと子さんには、私が今まで受けてきた心無い一言でどれだけ傷付いてきたのかが、わかっているような気がした。
「あんたべっぴんさんやしええ子やのに。もっと自信持ち。ほら、生き神さまも思とるわ。べっぴんさんって」
さと子さんは何かをしている人の邪魔をしないというのは、どうやら嘘らしい。
さと子さんは、急に読書をしようとしていたまやくんを巻き込み始めた。
「は……え?沙希さん?うん……べっぴんさん……かな」
話を振られたまやくんは、顔を赤らめながらもごもごとさと子さんに同意をしてから、持っている本で顔を覆ってしまった。
そんな変な空気を知ってか知らずか、さと子さんは得意げな顔をして「ほらね」と言った。
吐き気をするほどの嫌な気持ちは、あっという間に気恥ずかしい気持ちへと変えられて、きっとこれはさと子さんの元巫女さんとしての能力なのだろうと、無理やり納得した。