軽快な戸の開く音と同時に、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「ただいまー」
「あ、まやくん、お帰りなさい」
まやくんは私の方を見てにこりと微笑み……かけたところで、すぐに私の隣にいるおばあちゃんに気が付くと、ぴたりと固まってしまった。
ですよね、そうなりますよね。
でも、その後すぐ「あれ?さと子さんじゃないですか」と言ったから、このおばあちゃんは危険人物ではないということがわかって安心した。
「おばあちゃんと知り合いなの?」
「うん。隣の集落に住んでいて、たまにうちに来るんだ」
「お客さん?」
「うーん……ちょっと違うかな」
どういうことだろう。なんて思っていると、さと子さんが、「これはこれは、生き神様、ありがたやありがたや」と、まやくんに向かって拝み始めた。
状況が飲み込めない私はもう宿題どころではない。
「ええと、さと子さんとまやくんはどのようなご関係で」
「赤の他人だよ。さと子さんからすると、そうではないみたいだけど」
「ごめんなさい、ちょっとよくわからないです」
まやくんは笑いながら「だよね」と言って、私を台所の方に手招きして連れてくると、付け加えるように説明してくれた。
要するにこうだ。
さと子さんは昔、この地域の神社でずっと巫女さんをしていた。しかも村では唯一口寄せという亡くなった人と会話できるという特殊な能力を持っていた。
そのおかげで一時期は全国的に有名になったこともあって、何度かテレビに取り上げられたこともあった。
でも、もう引退して何年も経過しているし、年齢の影響もあってか、時々自分の家と間違えてここに入ってくるのだ。
そしてどういうわけか、さと子さんの目にはまやくんが生き神様として写っているみたいで、来るたびに拝まれるのだそう。ちょっと失礼じゃない?
「まやくんは嫌じゃないの?」
私だったら自分が思っていもいないように解釈されるのは嫌だ。変なあだ名で呼ばれているような気もするし。
「さと子さんにはそう見えるんだから仕方ないよね。それに、あながち間違ってもいないし。さと子さんはちょっとズバズバ言う人だけど、すごく良い人だよ」
まやくんは冷蔵庫から麦茶が入った容器を取り出したから、私は戸棚にあるガラスコップを一つ調理台の上に置いた。
「え、まやくんは神様ってこと?」
「いや、そうじゃなくて……おわっ!」
私用にとガラスコップをもう一つ取ろうとしてくれたところで、まやくんがまた急に叫び出した。傾いたコップは間一髪のところで落下を免れて、ほっとした。
視線の先に目をやってみると、高速で動くものがいたのは気配でわかったけれど、すぐに消えてしまった。
「なに?今の」
「フナムシ、だと思う」
フナムシのことは私も知っていた。
人間に害はないのだけれど、見た目の不気味さと動きの素早さと、ぞわぞわするくらい群がるため、あまり好かれる生き物ではない。ちなみにフナムシは虫の仲間ではなくて、カニやエビの仲間だ。
もちろん虫嫌いであるまやくんの天敵であるのは言うまでもない。
まやくん曰く、海辺にいる生き物なのだけれど、この家は目と鼻の先に船付き場があるから時々間違って入ってくるんだとか。
「フナムシって、あのスーパーカーみたいに早く動き回るやつだよね」
「スーパーカー?」
「うん、だって平べったくて凄いスピードで走るから」
「ふ……あははっ!確かに」
面白く言ったつもりでもなんでもなかったのだけれど、またしてもまやくんをツボらせてしまったらしい。……喜んでくれて何よりです。
「ただいまー」
「あ、まやくん、お帰りなさい」
まやくんは私の方を見てにこりと微笑み……かけたところで、すぐに私の隣にいるおばあちゃんに気が付くと、ぴたりと固まってしまった。
ですよね、そうなりますよね。
でも、その後すぐ「あれ?さと子さんじゃないですか」と言ったから、このおばあちゃんは危険人物ではないということがわかって安心した。
「おばあちゃんと知り合いなの?」
「うん。隣の集落に住んでいて、たまにうちに来るんだ」
「お客さん?」
「うーん……ちょっと違うかな」
どういうことだろう。なんて思っていると、さと子さんが、「これはこれは、生き神様、ありがたやありがたや」と、まやくんに向かって拝み始めた。
状況が飲み込めない私はもう宿題どころではない。
「ええと、さと子さんとまやくんはどのようなご関係で」
「赤の他人だよ。さと子さんからすると、そうではないみたいだけど」
「ごめんなさい、ちょっとよくわからないです」
まやくんは笑いながら「だよね」と言って、私を台所の方に手招きして連れてくると、付け加えるように説明してくれた。
要するにこうだ。
さと子さんは昔、この地域の神社でずっと巫女さんをしていた。しかも村では唯一口寄せという亡くなった人と会話できるという特殊な能力を持っていた。
そのおかげで一時期は全国的に有名になったこともあって、何度かテレビに取り上げられたこともあった。
でも、もう引退して何年も経過しているし、年齢の影響もあってか、時々自分の家と間違えてここに入ってくるのだ。
そしてどういうわけか、さと子さんの目にはまやくんが生き神様として写っているみたいで、来るたびに拝まれるのだそう。ちょっと失礼じゃない?
「まやくんは嫌じゃないの?」
私だったら自分が思っていもいないように解釈されるのは嫌だ。変なあだ名で呼ばれているような気もするし。
「さと子さんにはそう見えるんだから仕方ないよね。それに、あながち間違ってもいないし。さと子さんはちょっとズバズバ言う人だけど、すごく良い人だよ」
まやくんは冷蔵庫から麦茶が入った容器を取り出したから、私は戸棚にあるガラスコップを一つ調理台の上に置いた。
「え、まやくんは神様ってこと?」
「いや、そうじゃなくて……おわっ!」
私用にとガラスコップをもう一つ取ろうとしてくれたところで、まやくんがまた急に叫び出した。傾いたコップは間一髪のところで落下を免れて、ほっとした。
視線の先に目をやってみると、高速で動くものがいたのは気配でわかったけれど、すぐに消えてしまった。
「なに?今の」
「フナムシ、だと思う」
フナムシのことは私も知っていた。
人間に害はないのだけれど、見た目の不気味さと動きの素早さと、ぞわぞわするくらい群がるため、あまり好かれる生き物ではない。ちなみにフナムシは虫の仲間ではなくて、カニやエビの仲間だ。
もちろん虫嫌いであるまやくんの天敵であるのは言うまでもない。
まやくん曰く、海辺にいる生き物なのだけれど、この家は目と鼻の先に船付き場があるから時々間違って入ってくるんだとか。
「フナムシって、あのスーパーカーみたいに早く動き回るやつだよね」
「スーパーカー?」
「うん、だって平べったくて凄いスピードで走るから」
「ふ……あははっ!確かに」
面白く言ったつもりでもなんでもなかったのだけれど、またしてもまやくんをツボらせてしまったらしい。……喜んでくれて何よりです。