お母さんや先生に「将来どうするの」って聞かれたら、納得できるような答えを用意しておかなきゃいけない。

でも、私は何事も起こらない毎日を過ごすのに精一杯で、将来どうしたいのかや、何をしたいのかなんて考えていなかった。

いや、ずっと考えたくなかったのかもしれない。私は取り柄なんてないし、クラスで唯一話す人といえば絵里ちゃんくらいだ。

成績は悪い方ではないけれど、持て余らせている時間をとりあえず勉強に充てているからにすぎない。

好きな事は、そうだな。たまにお父さんからもらったミラーレスカメラを持って出かけるくらいかな。

電車に乗って街とは反対方向に行って、海の景色や花の写真を撮る。じゃあ将来は写真に関することを仕事にしたいのかというと、別にそうでもない。

出かけた先で、気になったものを写真という形で残しておきたいだけ。

撮った写真は、レタッチと言ってパソコンの加工ソフトで少しだけ手を加えて”大切なもの”フォルダの中に溜め込んでいく。

フォルダの中にお気に入りの写真が少しずつ増えていくと、満たされた気持ちになる。誰に見せるわけでもない、ただの自己満足で楽しんでいるものだ。

というか、将来について考える前に、私は過去を何とかする必要がある。

だって私は幼い頃の記憶が全くないのだから。

どんなに頑張って思い出そうとしても、小学生に入学する前までの記憶はすっぽりと抜けてしまっている。

それに、記憶がある頃からすでに右腕に痣のようなものがある。

これが生まれつきのものなのか、それとも小さい頃にできたものなのか、よくわからない。

このことをお母さんに聞くと、決まって悲しい顔をしながら、いつもはぐらかされる。

本当のことを教えてくれないのは、きっと聞いちゃいけないことなんだと自分に言い聞かせていくうちに、次第に聞くことは無くなった。年々もやもやが大きくなってきているけれど。

唯一言えることは、この痣のせいで小学校は「ながそで」と呼ばれ続ける暗黒の時代を過ごした。

まあ、痣をコンプレックスに感じた私はいつも隠すように長袖の服を着ていたからしょうがないんですけど。


ああ、思い出すだけで気分が悪くなってくる。


今を生きるのに精一杯な私に、先のことなんてわかるはずがない。