貰ったバスタオルですっかり水滴が落ちきった髪と乾きかけた身体を拭く。
代わりに水気を含んでしまったパーカーとジャージには、念入りにドライヤーを当てる。
バスタオルを忘れたおかげで、もうすっかり湯冷めしてしまったけれど、さすがにお風呂上がりくらいは半袖で過ごしたい。
自分の部屋にいるようにTシャツでいれば済む話なのだけれど、そんな勇気が溜まりきっていない私にとっては、依然として大きな問題として立ちはだかっていた。
さっきまであんなに『もう少しだけ勇気を出してみよう』なんて思っていたのに。
でも今回は少し成長したのだろうか、いつもの消極的な私を、もう一人の私が揺さぶりをかける。
それは決して気持ちの良いものではないけれど、少しは消極的な自分を変えられるのではないかという確かな手応えも感じた。
そして私が導き出した結論は……
結局パーカーを羽織って肘まで袖を捲るという妥協案だった。
今までの私から考えると大躍進だと思う。
でも、でもさ……もうちょっとだけ頑張ってみてもいいのでは。
心の中で自分に突っ込みまくってしまったけど、いざ外に出るとなると、袖を捲るくらいで丁度良かったと思い直した。
恐る恐る扉を開けて囲炉裏部屋に入ると、部屋に漂う海猫堂のコーヒーの香りが、より一層部屋の空気を和ませてくれているようだった。
茂さんは相変わらず耳にイヤホンをしながらパソコンのキーボードを叩いている。
画面をチラリと覗いてみると、すごい勢いで文字が生まれていた。
向かいにいるまやくんは、本の世界に入り込んでいる。
「お、お風呂上がりました」
まやさんは私に気付くと「おかえりー」と言ってから、イヤホンをしている茂さんに聞こえるようなボリュームで声をかける。
「次、茂さん入ります?」
「うーん、もうちょっと時間かかりそうだから、まやくん先に入っていいよ」
「はーい」
二人のテンポの良い掛け声が心地良い。
お風呂に入ってしまったまやさんしばらく囲炉裏を囲んでいるテーブルに座ってみたり、隣の部屋にある本棚を物色してみたけれど、さすがに濃い一日の疲労からか、眠くなってきた。
囲炉裏部屋を通り過ぎようとすると、茂さんが「おやすみー」と言ってくれたから、私はペコリと頭を下げながら「おやすみなさい」と言って二階に上がった。
敷きっぱなしの布団の上にゴロリと寝転びながら意味も無くスマホのホーム画面を広げると、お母さんと絵里ちゃんからのLINEを返していないことを思い出した。
お母さんには、無事に付いたことを簡潔に報告しておけばそれでいい。
絵里ちゃんには【今田舎の古民家にいるよ】って打ったら、
【え……⁉︎】
【いーなー】
【あたしも行きたい!】
って、ポコポコとメッセージが返ってきたから【今度行くとき呼ぶね】とペンギンが土下座しているスタンプを送っておいた。
寝転んだまま電灯に向けて突き出した右腕をまじまじと眺める。
パッと見たところ赤くなっているだけのように見えるけど、よく見ると、ところどころ紫色に変色している部分もある。
小学生の時と比べると随分薄くなったけれど、この腕を見て湧き上がってくる感情は、年々大きくなって私を歪ませている。
パーカーを脱いでTシャツ一枚になって、すぐに電気を消した。
暗闇の中、私はカメラの電源を入れて今日撮った写真を一枚づつ見返す。
一通り見終わって満足したら、電源を切って寝転んだままテーブルの上に置いて、いつものようにタオルケットを頭から被った。
ーー疲れたけど、楽しかったなあ。
無理やりポジティブな考えで上書きし終えると、全ての緊張が切れたのか、徐々に意識が遠のいていった。
代わりに水気を含んでしまったパーカーとジャージには、念入りにドライヤーを当てる。
バスタオルを忘れたおかげで、もうすっかり湯冷めしてしまったけれど、さすがにお風呂上がりくらいは半袖で過ごしたい。
自分の部屋にいるようにTシャツでいれば済む話なのだけれど、そんな勇気が溜まりきっていない私にとっては、依然として大きな問題として立ちはだかっていた。
さっきまであんなに『もう少しだけ勇気を出してみよう』なんて思っていたのに。
でも今回は少し成長したのだろうか、いつもの消極的な私を、もう一人の私が揺さぶりをかける。
それは決して気持ちの良いものではないけれど、少しは消極的な自分を変えられるのではないかという確かな手応えも感じた。
そして私が導き出した結論は……
結局パーカーを羽織って肘まで袖を捲るという妥協案だった。
今までの私から考えると大躍進だと思う。
でも、でもさ……もうちょっとだけ頑張ってみてもいいのでは。
心の中で自分に突っ込みまくってしまったけど、いざ外に出るとなると、袖を捲るくらいで丁度良かったと思い直した。
恐る恐る扉を開けて囲炉裏部屋に入ると、部屋に漂う海猫堂のコーヒーの香りが、より一層部屋の空気を和ませてくれているようだった。
茂さんは相変わらず耳にイヤホンをしながらパソコンのキーボードを叩いている。
画面をチラリと覗いてみると、すごい勢いで文字が生まれていた。
向かいにいるまやくんは、本の世界に入り込んでいる。
「お、お風呂上がりました」
まやさんは私に気付くと「おかえりー」と言ってから、イヤホンをしている茂さんに聞こえるようなボリュームで声をかける。
「次、茂さん入ります?」
「うーん、もうちょっと時間かかりそうだから、まやくん先に入っていいよ」
「はーい」
二人のテンポの良い掛け声が心地良い。
お風呂に入ってしまったまやさんしばらく囲炉裏を囲んでいるテーブルに座ってみたり、隣の部屋にある本棚を物色してみたけれど、さすがに濃い一日の疲労からか、眠くなってきた。
囲炉裏部屋を通り過ぎようとすると、茂さんが「おやすみー」と言ってくれたから、私はペコリと頭を下げながら「おやすみなさい」と言って二階に上がった。
敷きっぱなしの布団の上にゴロリと寝転びながら意味も無くスマホのホーム画面を広げると、お母さんと絵里ちゃんからのLINEを返していないことを思い出した。
お母さんには、無事に付いたことを簡潔に報告しておけばそれでいい。
絵里ちゃんには【今田舎の古民家にいるよ】って打ったら、
【え……⁉︎】
【いーなー】
【あたしも行きたい!】
って、ポコポコとメッセージが返ってきたから【今度行くとき呼ぶね】とペンギンが土下座しているスタンプを送っておいた。
寝転んだまま電灯に向けて突き出した右腕をまじまじと眺める。
パッと見たところ赤くなっているだけのように見えるけど、よく見ると、ところどころ紫色に変色している部分もある。
小学生の時と比べると随分薄くなったけれど、この腕を見て湧き上がってくる感情は、年々大きくなって私を歪ませている。
パーカーを脱いでTシャツ一枚になって、すぐに電気を消した。
暗闇の中、私はカメラの電源を入れて今日撮った写真を一枚づつ見返す。
一通り見終わって満足したら、電源を切って寝転んだままテーブルの上に置いて、いつものようにタオルケットを頭から被った。
ーー疲れたけど、楽しかったなあ。
無理やりポジティブな考えで上書きし終えると、全ての緊張が切れたのか、徐々に意識が遠のいていった。