しばらくの間、私たちは星を眺めながらお互いに聞きたいことを質問し合った。

といっても、まだお互いに牽制球を投げ合っている状態だったから、犬と猫どっち派だとか、好きな食べ物は何かとか、よくわからない質問ばかりだった。

でも、ただ言葉のキャッチボールをしているだけで、私は満足だ。

余計なことを勘繰ることなく、ただお互いが思ったことを訊いていく。そんな乱雑な時間が、妙に心地良かった。

それに、面と向き合うのではなく、お互い空を見上げながら話すと、変に緊張せずにいられるから不思議だ。

そのうち街灯が何度か明滅したから驚いたけど、まやさんとクロがいるからか、すぐに気にならなくなった。



「へえ、行き付けのカフェがあるんですね」

「はい。仲の良いご夫婦二人でやっていて、そのお店の雰囲気がすごく好きなんです」

「一ノ瀬さんが好きな雰囲気ってどんなのだろう。気になる」



今度一緒に行きましょうって言いかけたけど、これだとデートに誘っているように聞こえてしまうのではと思ったから、慌てて口を噤んだ。



「そういえば、一ノ瀬さんのお母さんは、どんなお仕事をしているんですか」

「文具メーカーで営業のお仕事をしています。都内にある文具屋さんや書店を回っているみたいです」

「都内?茂さんがよく行くところだ」



茂さんは元々都内の広告代理店で働いていて、会社を辞めた後も前職のツテで仕事を受けもっているらしく、しょっちゅう都内に出張するらしい。

そういえば私のとこに来たのも、元々はうちの近くで仕事があったからだっけ。



「まやさんは、どこから来たのですか」



ずっと気になっていたことを、ようやく聞けた。



「僕は昔からずっとこの辺りにいます」



え……?

ということは、ご両親もこの近くに住んでいるのだろうか。

けれど、まやさんは、

「わかりません。両親は僕が小さい時にここを離れていきました」

と、思ってもいないことを言った。



「ご……ごめんなさい」

「いえ、謝らないでください。きっと今頃どこかで元気に過ごしていると思います」



あ、そうなんだ。私てっきり……。

飄々(ひょうひょう)と答えるまやさんを見て私は少しだけ安堵したけれど、すぐにまやさんの家庭の事情は、私より相当複雑なのかもしれないと勘繰って、この質問をしたことをひどく後悔した。



「あ、でも、両親を憎んでいるとか、そういうのはありません。今でも好きですよ」



どういうこと?

どんな理由があっても、両親が自分を残して去ってしまったことに納得なんてできるのだろうか。



「そんな顔をしないでください。僕は平気ですよ」

「でも……」

「はい、ストップ。一ノ瀬さんの想像力が暴走していません?」



そう言って、まやさんは掌を私に向ける。想像力が暴走って、一体。



「そんなに深く考えず、ただ一ノ瀬さんが気になったことを聞いてください。大丈夫。嫌だったら言いますから」



そっか。確かにせっかく相手が平気と言ってくれているのに、聞かずに勝手な妄想をしてしまうのは、あまりにも失礼なことなのかもしれない。