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「三年生になったらすぐ進学か就職かに分かれて対策しないといけないからねー。じっくり時間が取れる夏休みのうちに進路のことも考えておきなさーい」
一時間目が始まる前のホームルームで、担任の斎藤先生が一学期最後の連絡事項を伝え終えると、付け加えるように言った。
「まだ早いってー」
「一年以上先のことじゃん」
「どんだけ俺らを焦らせんだよせんせー」
先生の言葉が私に重くのし掛かったのはどうやら私だけみたいで、クラスのみんなは反撃するかのように、あちこちからブーイングをする。
「君達甘ーい!三年生になったら考える暇なんてないんだからね!進学組は試験対策をしなくちゃいけないし、就職組は面接練習だってあるんだから!それに三年生なんてあっという間よ!あっという間!」
「せんせー夏休み前に何でこういうこと言うかな」
「マジテンション下がるわー」
秋吉くんや遠藤くんは相変わらず反撃を続けている。斎藤先生はやれやれと言わんばかりに小さく溜息を吐きながら、
「はいはい。じゃあくれぐれも羽目を外しすぎないようにね。夏休み中に呼び出しなんて先生やだからね!」
と言っていた。なんだかお母さんみたい。
少しクスッとしてしまったから慌てて口元を押さえていたら、隣の席に座っている絵里ちゃんと目が合った。
絵里ちゃんはシシシッて悪戯っぽく笑い返してくれたから、またちょっと笑ってしまった。
ホームルーム終ると、斎藤先生は教卓に学級簿をトントンとしてから、もう一度小さな溜息を吐いて、静かに教室を出ていった。
進路……か。大人になったら一体何をしているのだろう。