暗い夜道に静寂が加わると、そこにいるだけで無条件に恐怖心が襲ってくる。いつ何が飛び出てきてもおかしくないと錯覚してしまう。

今はまやさんがいるから良いけれど、もし私一人でここに取り残されたら、すぐに心臓発作を起こしてしまうだろう。

スマホで足元を照らしながら歩くのが良いのではと思ったけれど、まやさんにとっては歩き慣れた道だからか、真っ暗闇にも関わらず、臆することなく突き進んでいく。

と言っても、決して我先にというわけではなく、歩幅は私に合わせてくれている。



「満月だったら明るくて歩きやすいのですが、今日は二日月なので結構暗いですね。まあ月の光が控えめなおかげで、今夜は星がよく見えるのですが」



まやさんが夜空を見ながら囁くように呟いた。



「二日月?」

「はい。三日月よりも細い月のことです。あまりにも細いので『繊月』とも呼ばれています」

「へえ……いろんな呼び方があるんですね」

「はい。月齢によって名前があるのはもちろん、季節、天気、見え方によっても呼び名があります。なかなか風情のある呼び方ですよ」



満月以降は月が出るのが日ごとに遅れるため、月が出てくるのを躊躇することをいざようため、十六夜(いざよい)と呼ぶ。

その次は、今か今かと立ちながら待つから、立待月。
待ちくたびれてしまうから、居待月。
あまりにも眠すぎてお布団に入りながら待つから、寝待月。
すっかり夜が更ける頃になるから、更待月。

ほかにも、寂しげに見える月のことを孤月と呼ぶことも教えてくれた。



「いろんな呼び方があるんですね」

「ええ。実際にはもっとたくさんあります」

「まやさんは物知りですね」

「そんなことありません。ここに長くいる分、自然と身の回りのものに対して詳しくなっただけだけです」



その表情、は少し曇っているように見えた。

一体どれくらいの間ここにいるのだろう。