「あの……」

「はい、なんでしょう」

「まやさんは相手が何を考えているのかがわかるのですか?」

「どういうことですか?」



突拍子もないことを聞いたせいか、急に何を言い出すんだこいつはという表情をしていた。



「あ、ええと。私が何も言っていなくても、大体私が喜ぶことをしてくれるというか……」

「?」

「玄関にいた時に扉の先のことを教えてくれたり、囲炉裏の蓋を見た時も蓋を開けて見せてくれたり、茂さんのことを大丈夫かなって思っていたら、心配しないでと言ってくださったり……」



自分でも何を話しているのかわからなくなってきた。



「すみません。お節介でしたよね」

「いえ、そうじゃなくて、純粋にすごいと思いました」

「そんなことありませんよ。今までこの家に訪れてきた人たちも、よく一ノ瀬さんと同じような反応をしていましたのでわかるんだと思います」

「わかるようになるものなんですか?」

「うーん、人によると思います。僕は人の表情や仕草を気にしてしまう性格なんですよね。察しやすいと言うのでしょうか」

「察しやすい……」



私もそうだ。人の顔色ばかり窺っている。



「あ、でも一ノ瀬さんはわかりやすいですよ」

「そ、そうなんですか⁉︎」

「はい。気になったものを興味深そうにジイッと見つめますよね。しかもその時の目はすごくキラキラしていて、好奇心旺盛なのがすごく伝わってきます」



なるべく思ったことは出さないようにしていたけれど、思いきり外に漏れていたみたい。学校でもそうだったらまずいのでは。



「一ノ瀬さんの持っている雰囲気、僕は好きですけどね」



いや好きとかさ……まやさんって、意外と勘違いするようなことを言いますね。

少し顔が熱くなってきたから、話題を変えることにした。



「ま、まやさんは、長いことこちらに住んでいるのですか?」

「そうですね。もう長いこと……」



さっきまでの明るかった表情が、みるみる神妙な面持ちに変わり、どこか哀感を帯びていたような声になってしまった。この手の質問をしてはいけなかったのだろうか。



「さて、僕は今から夕食の準備をしますので、これで失礼します。わからないことがあれば、いつでも聞きに来てください」

「あ、はい。ありがとうございます」


さらりと話が終了してしまったけれど、これで良かったと思った。

静かに扉が閉まり、まやさんが階段を降りていく足音が徐々に小さくなっていく。

折角だから何か手伝おうかと思ったけれど、一人になった途端に緊張の糸が切れたのか、今までの疲れが一気に押し寄せてきた。

襖を開けると敷布団と毛布が入っていた。敷布団を敷きずりだしてバサリと広げると、身を任せるように倒れ込んだ。

部屋全体は暑さが留まっていてむわっとしていたから、すぐに机の上に置いてあるエアコンのスイッチを押した。

そして、羽織っていたパーカーを脱ぎ捨てたところで、私の意識はそこで途絶えた。