「さて、お部屋を案内しますね」

「お願いします」



二階へと続く階段は、一つ一つの段差が思っていたより高く、急勾配になっていた。降りるときは手すりにしがみつかなければ踏み外した時大変だ。



「持ちますよ」


この急勾配の階段をキャリーバッグを持って登れるのだろうかとまごついていたら、まやさんが気を遣ってキャリーバッグを持ってくれた。



「え、そんな、悪いですよ」

「いえいえ、長旅で疲れているでしょうし」



まやさんは力持ちという体格ではないようだったから、バッグを持つ腕はプルプルしていた。

私が「大丈夫ですか」と声をかけると「だ、大丈夫」と言いながらキャリーバッグの脚を階段の角にぶつけながら一段ずつ持ち上げていく。

大丈夫かと聞かれたら、大抵の人は大丈夫って答えてしまう。だからこの一言は余計だったかもしれない。



「こちらの部屋を使ってください」

「ありがとうございます」

案内してくれたのは、私の部屋と同じくらいの広さで、くたびれた畳が敷き詰められている部屋だった。

部屋の真ん中には小さなちゃぶ台が一つ置いてあって、あとは何もない質素な部屋だった。でも、普段からこまめに掃除がされているようだったから、特に抵抗はなかった。



「布団は押し入れに入っています。エアコンのリモコンはそこのテーブルの上にありますので、気にせず使ってください」



家ではほとんど勉強机の高さに合わせられたデスクチェアに座っていたから、この小さなちゃぶ台を使って正座をしながら宿題をするのかと思うと、ちょっと気が重くなった。



「少し狭いですが、このうちで一番良い部屋です。ちょっとこっちに来てください」

まやさんがカーテンも戸も付いていない窓を開けると、ここに来る時に見えた船着場が一望できた。

「わ……」

この辺りの景色は既に何度か見ていたから、初めてみる時の新鮮味はなかったけれど、ゆったりとした景色は私の心を落ち着かせてくれた。



「日当たりが良すぎるので日中は少し暑いかもしれませんが、エアコンを使えば快適に過ごせます。それと、このうちはwi-fiも繋がっています」

「こんなに良い部屋を使わせていただいても良いのですか?」

「ええ、今は誰も使っていませんので、好きにしてもらって構いませんよ。それに、せっかく来ていただいた一ノ瀬さんには、良い部屋を使ってほしいですし」

「あ、ありがとうございます」

そんなに大層な身分ではないのに。何だか申し訳なくなってきた。

私はもう一度深々と頭を下げた。