「おーい!そんなに遠くにいなくても大丈夫だよ。こっちに入ってきな」

「……は、はい」

茂さんが玄関から手招きをしている。わかってます。今、行きますから……!

やっとの思いで到着したというのに、この先に見知らぬ男の子がいると思うと、なかなか足が進まなかった。どうやら私の中にいる人見知りの自分が駄々を捏ねているようだ。
 こんなに兢々(きょうきょう)としていると、逆に変なやつだと思われる。無理矢理にでも平静を装わないと。

門の石垣に隠れて大きく深呼吸してから、意を決して玄関のほうへと歩いていく。少し進んだところで、見つからないようにもう一度小さく深呼吸し、玄関の中へと入る。

ええと、まずは何をするんだっけ。ああそうだ、あいさつだ。



「こん……にちは」



辿々(たどたど)しく挨拶をする。ちょっと気負いすぎてしまったみたいで、変なところで(ども)ってしまう。声が裏返らなかっただけまだマシだけど。



「こんにちは」



すぐに男の子の落ち着いた声が返ってきた。茂さんの声や話し方も、相手を威圧しないと思っていたけれど、この男の子の声も、また優しかった。

ゆっくりと視線を上げると、男の子は不思議そうに私のことを見ていた。

一瞬、無意識にぎゅっと握り締めた右腕のに視線を向けたような気がしたけれど、すぐに私の顔に視線を向け直してくれた。



男の子と、目が合った。



どこかで会ったことがあるような、そんな気がした。