洗い物を片付け、洗濯を済ませる。いつもなら学校に行く時間なのだけれど、今日からしばらく行かなくても良い。

予定がないと時間を持て余せてしまっているような気がしたから、部屋に掃除機をかけたり玄関に溜まった砂を箒で掃いたり、できる限り忙しくしてみた。

掃除も飽きてきたら、キャリーバッグに詰め込まれた宿題を取り出し、お昼過ぎまで頑張ってみた。

夕方には買い物をして、お母さんのために夕飯を作っておく。作り過ぎたものはそのままお鍋の中に入れておき、帰って来たらそのままレンジで温められるようにラップをしてお盆にまとめておく。

こういう時って『いつもお仕事お疲れさま』とか『行ってきます』とか書いた置き手紙を残しておくのが良いのかな、なんて思ったけれど、恥ずかしいからやめた。

部屋からキャリーバッグを引きずって、土間に置く。部屋の戸締まりはしたか、消し忘れた電気はないか、一つ一つ入念に確認する。

一度心配し始めると、些細なことがいつまでも頭に残る。もし火を消し忘れていたらとか水を出しっぱなしにしていたらとか、起きてもいない悪いことをいつまでも考えてしまう。本当に面倒臭い性格だ。

部屋の中を何周かしてから、集合時間に間に合わなくなるからと自分に言い聞かせ、ようやく玄関に向かう。

誰もいないキッチンに向かって小さく行って来ますと行ってから、扉を閉める。最後にもう一度ドアノブを捻ってから、駅へと向かう。
 

万葉駅は都心に近い大きな駅で、高速バスの停留所としても有名なところだ。最寄駅から二駅ほどしか離れていないけれど、十分都会の雰囲気をしていて、駅中のビルにはお洒落なお店もたくさんある。

 時々放課後に絵里ちゃんと買い物に来ることもあるけれど、人がたくさんいるところに一時間もいると、すぐに目がチカチカしてくるから一人では滅多に来ない。

絵里ちゃんは平気、いや、むしろこういうところが好きみたいで、店内が混み合っていても臆することなく先に進んでいく。

それにインスタですぐに行きたいお店は事前にチェックしているらしく、すぐに案内してくれる。私は絵里ちゃんに着いて行けば良いから楽だし、意外と楽しめている。

夕方の万葉駅は、仕事帰りの大人がたくさん歩いていて、みんな心なしか、疲れ切った表情をしていた。

お母さんも毎日駅ではこういう感じなのだろうか。やっぱり働くことって大変なんだろうなあなんて思っていたら、先が真っ暗になったような感覚がした。



「おーい!沙希ちゃん!こっちこっち」



駅の外には、大きな高速バス乗り場があって、すぐに茂さんが私を見つけてくれた。



「お待たせしました」

「お疲れさん。急に今日出発って言い出ってごめんね。準備大変だった?」

「いえ、夕方まで時間があったので大丈夫でした。茂さんもお仕事お疲れさまです」

「ありがとう。こっちでやることは全部終わらせることができたからよかったよ」

「大変なお仕事なんですね」

「今回は少しスケジュールを詰め込み過ぎてしまったからね」



どんなお仕事をしているのだろう。確か海猫堂で仕事の話をしていた時に、取材とかなんか言っていたっけ。



「これから夜行バスで十時間くらい揺られて、その後向こうに着いたら電車に乗って、最後はまたバスに乗る。長旅になるから、夜行バスの中ではできるだけしっかり寝ておくんだよ」

「じゅ、十時間もですか……」



大丈夫だろうか。こんなに長旅になるなんて思ってもいなかった。そもそも夜行バスに乗るのなんて初めてだ。



「夕飯まだだったよね。時間もあるし、駅中で軽く済ませてしまおう」



茂さん曰く、バスでの移動は結構揺れるし、食べてすぐに寝ることになるから、身体にもあまり良くないので、軽く済ませておく程度が良いらしい。

私達は駅中にあるカフェに入ってサンドイッチを食べてから、すぐにバスに乗った。

思ったより揺れたけれど、お母さんが事前に用意してくれた酔い止めを飲んでおいたからよかった。

初めは寝られるかどうかわからなかったけど、車内は仕切りのカーテンがあったし、動き出したらシートは倒して良かったから大丈夫そう。

備え付けられていたブランケットを頭からかぶってイヤホンをすると、意外と快適な空間になる。

いざバスが動き出すと、電車と違ってゆっくり上下に揺れる感覚は意外と心地良くて、バス移動は意外と好きかもしれないと思った。