「それじゃ、お母さんはもう行くけど、くれぐれも気をつけてね」

「うん。お母さんもお仕事頑張ってね。いってらっしゃい」

「向こうに着いたらすぐに連絡するのよ。無理しないで。嫌になったらすぐに帰ってきても良いんだからね」

「わかってる。大丈夫だよ」



お母さんは、一生の別れではないかというくらい悲しそうな顔をしたあと、今できる精一杯の作り笑いをしてから、仕事に行ってしまった。

私の前ではきちんとお母さんらしいところを見せようとする。そういうところが苦手だけど、好きでもある。

昨日の夜、お母さんは私を一人で行かせるのはどうしても心配だから、せめて茂さんが帰る時に一緒に連れて行ってくれと頼んでいたみたい。

茂さんは早朝から取材に出かけてしまったらしく、既に家に居なかった。

スマホのメッセージアプリを見てみると、

【万葉駅の高速バス乗り場に19時に集合！チケットはもう取ってあるよ！】

すごいざっくりしたメッセージが残されていた。

お母さんが出張に行く時に使う大きなキャリーバッグを貸してくれたから、そこに三日分くらいの着替えを服を詰め込んで、残りのスペースにはカメラとパソコン、一応宿題も詰め込んでおいた。