放課後になった。

今日は写真部の、月初め定例会の日だ。

ここにさえ顔を出していれば、写真部として認められる。

個別に撮影に向かうことが多い部員同士も、ここでは顔を合わせる。

「と、いうわけで、今年のテーマは『挨拶』です。校内選考の投票日までに……」

 希先輩の話しが続いている。

部長である先輩は、2年生の時から積極的に色々なコンクールに参加してる人だし、作品の質も高い。

こういう人が最終的に『選ばれる』人になるんだろうな。

「圭吾くん」

 解散となった後で、その希先輩に声をかけられた。

他の部員はそれぞれに帰宅してしまったり、撮影に出かけたりしている。

「まだ演劇部にモデル頼んでないでしょ。圭吾だけだって荒木くんが言ってた」

 希先輩は、あれからどうしたんだろう。

「まぁ、圭吾は元々人物撮らない人だし、必要ないなら、ないでいいんだけど。せっかくだからチャレンジしてみれば?」

 ふいに彼女の顔が近づく。

ドキリとした俺に、サラサラとしたショートボブの髪が耳をくすぐる。

「舞香ちゃんに頼んでもいいってよ」

「だからそれは!」

「はは。じゃあね」

 そんなことを言われたって、俺は演劇部の奴らにモデルを頼む気はさらさらないんだ。

たとえ撮ったとしても、今のこのつながりの中で、撮影することはないだろう。

幸いにも、学校周囲は豊かな森が取り囲む。

少しレンズを絞って角度を調整すれば、森と空が綺麗に写るんだ。

そうだ。

許可をもらって、校舎の屋上から撮影するのもいいかもしれない。

与えられたテーマとは別に、フリーテーマでの出展も可能なのだから、今年のテーマにこだわることもないし……。

 カナブンを見つけた。

何の花だか知らないが、花壇に植えられていたピンクの花に、ピカピカ光る緑の頭を突っ込んでもがいている。

花粉にまみれながらももがくその姿を、すぐさま画像に収めた。

これだって立派な『挨拶』だ。

 夏の日は、あっという間に過ぎてゆく。

一部の生徒たちの間で、演劇部の大会参加が話題になり始めた。

普段はお菓子サークルと化している家庭科部との連携をとりつけ、衣装製作を頼むことになったらしい。

その衣装を着た役者を写真部の部員が撮影し、学校SNSに上げたことで火が付いた。

おかげで体育館の二階席には、連日野次馬の姿が見える。

協力を申し出る生徒も増え、監督であり部長でもある荒木さんの周りに、もはや人の絶えることはない。