今日は光雪に会いたくない。だから学校行きたくない。でも行かなきゃ。
「おはよ!」
光雪の元気な声が聞こえてきた。
「ねーねーこの前ねー」
光雪が話してるんだろうけど何となくしか聞こえなくて何も内容が入ってこなかった。あの時のことしか考えられなかった。
「そっか」
それだけ言って光雪から離れた。かなり冷たくしてしまったと自分でもわかっている。でも今は光雪に近づきたくないし話したくもない。ブランコのことを思い出す。弱い自分を見せてしまったということだけでもう無理なのにブランコであのことを思い出した。もうどうしたらいいのかわからなくなった。そんなことしか考えずに1日が終わった。急いで家に帰り自分の部屋に向かって走った。ふらついた。まただ。光雪の前じゃなくて良かった。
「いつか会えるよね。待ってるからね」
写真に向かって小声で言った。そして脳内大反省会が行われた。どうして今日あんなに冷たくしてしまったんだろう。どうして昨日弱い自分を見せてしまったんだろう。
私はあの時からいつもこうだ。ネガティブに考えてどうしてあの時、なんでこうした、みたいな事しか考えられない。ほんとにダメだ。自分でもわかっている。でもこれはある時からだ。私のせいじゃない。
今日は疲れた。光雪と会うとすごく疲れる。「あー!体操の準備しないでいいの?」
ママに言われてはっとした。今日は体操だ。ほんとに嫌だ。一応私は1番すごい選手コースにいる。みんなが出来ないこともできるし大会にも出ている。だから練習が普通のコースの子よりきついのだ。選手コースに行く前は筋トレなんてなかったのに急に筋トレを始めて筋肉痛がすごくなったのを覚えている。でももう慣れた。しかも大好きな友達もいる。
「今から行く」
それだけ言って家を出た。今日も頑張ろ!
着いてしまった。でも始まるまで30分もある。この時間は私が大好きな時間だ。同じコースの友達と話せる。
「おー!!雪音ちゃん!」
いつも元気な芽衣(めい)ちゃんだ。すごくお喋りでコミュ力が高い。私とは真反対だ。大体は芽衣ちゃんと喋っているが私にはもう1人大好きな友達がいる。
「雪音ー。練習やだよー」
夏菜子(かなこ)だ。夏菜子とは昔から仲がいい。私の一個下だ。夏菜子は短い男の子のような髪の毛が特徴的ですごく可愛い。夏菜子が入ってすぐの頃なんか見たことあるなって思って私が話しかけた。そしたら同じ学校の子で廊下ですれ違ったことがある子だった。ずっと同じコースで一緒に上がっていって選手コースまで一緒に来た。夏菜子は筋トレで毎回泣いている。私もきつくて泣きそうになる。夏菜子が泣きながらもできるのはすごいことだと思う。だって夏菜子は年下だ。なのに同じ練習に耐えている。ほんとにすごい。「夏菜子!今日学校で見かけたよ!」
私は夏菜子と芽衣ちゃんに会えてテンションが上がっている。
「ほんとに筋トレやだよ」
「やじゃない人なんていないわ!」
芽衣ちゃんと私が同時につっこんだ。
「wwwそうだね」
「wそーだよw」
「同時につっこんだねw」
いつものように楽しい時間を過ごしていた。ふと時計を見ると6時40分だった。
「あっ!もう40分だ」
「ほんとだ!やだなー」
「まじでヤダー」
私が時間を言うといつものように嫌がった。ほんとにこの時間が大好きだ。みんなで服を脱いだ。みんなレオタードになった。1個前のコースの子のお母さんたちがすごくびっくりしている。
「体操選手見たいだね」
と聞こえてきた。私も初めて見た時はほんとにそう思った。まだ普通のコースの頃選手コースを見てみたくて3時間待ってまで見たらほんとにすごくてここに行きたいって心から思った。さっきまで夏菜子も芽衣ちゃんも普通の女の子の格好をしていたのに今はすごくかっこいい。
「行こー」
水筒を持って部屋に向かった。
「お願いしまーす」
「お願いします」
「お願いします」
部屋に入る時は必ず器具や床に向かって挨拶をする選手コース特有の決まりがある。でも心から器具や床に挨拶してる人はいないだろう。私も最初の頃はほんとに気持ちを込めていたけど1ヶ月くらいだったらそんなことしなくなっていた。きっとみんなもそうだろう。やだなー。そう思うことも沢山あるけど私は体操を始めた時初めて心から楽しいと思った。練習はキツイけどほんとに楽しい。初めて技が成功した時や褒められた時、ほんとに嬉しい。
「ただいまー」
疲れて足が動かなかったから帰りが遅くなってしまった。
「おかえり、お疲れ様。」
体操は楽しいが帰りや次の日がほんとに嫌だ。足と手が痛くて動かない。最悪だ。
「ご飯もう食べる?」
「まだ食べない。自分で出すから」
「わかった。もうママは寝るね」
いつもの会話だ。だって今は9時半だ。そりゃママは眠いだろう。でもママが寝たあとのこの時間も私は大好きだ。YouTubeを見ながらゆっくりご飯を食べてゆっくりお風呂に入って好きなことを出来る。
YouTubeを見ながらご飯を食べ終えると10時になっていた。でも気にしない、怒ってくる人は誰もいない。お風呂に入って上がったらスマホを見る。幸せな時間だ。スマホを見ていると眠くなった。時計を見ると10時40分だった。もう寝るか。そう思って自分の部屋に向かった。布団に入った途端、光雪の顔が頭をよぎった。どうしてか分からない。なのに光雪が頭から離れなくなった。体操に行ってから光雪のことなんて忘れていたのに急に思い出した。心臓がバクバクする。明日も光雪に会うんだ。明日はつめたくしないようにしよう。でも何故か無理なのだ。どうしてかブランコのこと思い出して胸が締められる。どうしてなのか分からない、そうやって思っていたけどどうしてなのかほんとは分かる。自分が1番わかっているはずだ。でも誰にも言えない。言いたくない。

朝はすごくだるがった。学校に行かなきゃいけない、光雪に会うんだ。やだな。でも学校に行った。光雪を避けるように親友と遊んだ。次の日もまた次の日も授業以外では喋らないようにしてたのに光雪音に話しかけれてしまった。
「雪音の推し誰?」
私の推し・・・いるけど言えない。私の推しなんか言えない。でもなんか信用出来る。
「多分知らないと思うけど『あれら』って言うんだ。」
光雪は『?』という顔をしてこっちを見ている。どうしよう私自作のあれらブックを見せるか見せないか。
「これ、私があれら好きすぎて作ったあれらブックなんだけど」
「えっこれ自分で作ったの?すげー」
良かった。引かれなかった。家に帰った。今日は全然時間がある。だから私の好きなことをする。推しのあれら。スマホで動画編集する。あれらの動画や写真を切り抜いて一つの動画にする。それを投稿してあれら大好きってあれら本人に届ける。みんなこれを自分の推しでやっている。私はDMしたりして1回だけ動画が届いたことがある。ほんとに嬉しかった。だからこれからもやり続ける。動画編集はほんとに楽しい。自分で言うのもあれだけど私はあれらファンの中では結構古参であれらから1度フォローされたことがある。だから私のような投稿をしているあれらファンを見ると昔の自分を思い出す。その子たちの中で結構いいねが多い人にDMをした。
『こんにちは!あれら好きなんですか?』
するとすぐに返事が来た。
『はい!お話しましょ!』
きたきた。
『もし良ければあれらへの思いをここにぶつけません?』
そう言ってすごく長い文章を送った。これを送ったら返せないだろう。だって誰よりもあれらへの思いが強いのは自分だから。自分でもこんな風に思っているのはすごく性格が悪いと分かっている。だけどやりたくなってしまうのだ。相手が送ってきた文章を読むと確かに私より少なかったけど思いがすごく伝わってきた。こんなに思いが伝わってきたのは初めてだ。その後も色んな話で盛り上がった。すごい仲良くなった。会いたいと思ったけど相手は沖縄住みだった。だからお互いに写真送りあったり東京と沖縄の違いを言い合ったりして遊んだ。やっぱ会いたいな。
土曜日。大好きな日。でも暇だ。だから昨日の子にDMを送った。名前はあいりちゃんだ。可愛い名前。名前は漢字が無いらしい。ひらがなの子に初めてあった。今1番会いたい。
『雪音ー!会いたいよー!』
『私もー!あいりちゃんに会いたーい!』
ほんとに嬉しい。あいりちゃんと話していくうちに私とすごく似てることに気づいた。あいりちゃんは一個上だから敬語を使って話していたけどすぐにタメ口になった。あいりちゃんから他に好きなYouTubeを教えて貰ったりした。お互いに大好きだよってもうなん10回も言った。それくらい大好きだ。


今日は月曜日。ほんとに憂鬱だ。1限目は特に嫌いな数学だし何よりも嫌なのは光雪に会うこと。光雪が嫌いな訳では無いけど私の嫌いな思い出を思い出してしまう。家を出る前に写真に向かって
「行ってきます、会えるって信じてるよ」
と小声で言った。
「おはよぉ」
「おはよー」
「おっはよー」
次々とおはようの声が聞こえてきた。私も「おはよう」
と友達に挨拶をした。席に座って準備をしていると楽しそうな男子たちの笑い声が聞こえてきた。声を聞いただけで光雪のグループだとわかった。光雪が席に着いたので
「おはよう」
と声をかけた。すると
「おはよぉ」
と返ってきた。
「てかさ雪音の推し調べてみたんだけど、動画面白いね!」
と言われた。
「ね!面白いよね」
と返したが、すごく焦った。推しの裏垢は基本下ネタなのだ。だからもし裏垢を見つけていたら絶対に嫌われたし引かれた。私は顔が好きで見ているけど私が下ネタ好きなのだと勘違いされるに違いない。だから一応
「私推しの顔が好きなんだよね、てかなんの動画みた?」
言っておいた。すると帰ってきたのは本垢の動画ばかりだ。よし。多分裏垢は見つけていない。少し安心した。
「光雪は推しとかいないの?」
なんとか会話をそらそうと光雪のことを聞いた。
「俺は特にいないかな。」
失敗だ。なんて返せばいいのかわからない。だから
「そっか。」
と返して親友のところに行った。
私の親友は柚(ゆず)だ。柚とは4年前から仲がいい。柚から声をかけてくれて仲良くなった。周りから双子と言われる。それくらい仲がいい。柚と一日に10回はシンクロする。大好きな親友だ。ほんとにくだらない事で毎日笑う。今もくだらない話をした。チャイムがなって席に着くと光雪に
「お前らなんでいつも笑ってんの?」
と聞かれた。お前らというのは私と柚のことだろう。
「なんかなんでも面白く感じちゃうんだよね。柚といると。」
「そーなんだ。俺さ小さい時にその感覚味わったことあるんだけどもう忘れちゃった」
すごく驚いた。光雪は友達といる時そうならないのだろうか。
一日が終わり寝ようとすると今日の昼のことを思い出した。俺も小さい頃にその感覚味わった。と光幸が言っていた。どうして寝ようとすると光幸を思い出してしまうのだろうか。小さい頃にと言うのが私の中で引っかかった。いくら考えてもよく分からなかった。

そんなことより私は光雪のこと好きなのかな。

よく分からなくなった。目を見たり話したりすると緊張して心臓がバクバクなって夜はその人のことを考えてるって、恋に似てる気がした。でも私は好きな人を作ってはいけない。だってあの子のことがまだ忘れられないから。