「天国ってあると思う?」

 屋上のフェンスにもたれかかって、彼に尋ねてみた。
 彼は少し考えた後

「無い」

 と言った。
 彼がたまに見せるサバサバした感じも好き。
 ふと彼の長袖がめくれて、切り傷が見えた。その傷を見て、無性に悲しくなった。

「そうだよね」

 と呟いた。少しトーンが落ちてしまった。
 私は会話を弾ませたくて、更に彼に尋ねた。

「じゃあ死んだらどこに行くのかな?」

 彼はまた少し考え

「分からない」

 と言った。
 何故こんな話を始めてしまったのだろう。
 私も彼も得なんてしないのに。

「そっか」

 と当たり障りのない返事をしておく。
 でもこのまま会話を止めてしまうのも嫌だったから、本心を言ってみる。

「憐が死んでも忘れないでいられるかな」

 彼は少し驚いて、でもすぐに

「別に忘れていい」

 と言った。
 私は驚いた。彼の自虐にではなく、彼が本心を話してくれたことに。
 でも、それではあまりにも悲しい。

「忘れないよ。絶対に」

 と宣言した。

『嘘だ』

 そんな彼の心の声が聴こえたような気がした。勿論聴こえてはいないけど。
 彼は困惑したような顔をした。言葉を探しているらしい。
 彼は決心が着いたようで

「ありがとう」

 と言った。
 今度は私が困惑する番だった。彼の口から「ありがとう」なんて言葉が聞けるとは思ってもいなかったから。
 私はなんだか恥ずかしくなって、ただ笑った。
 それを見て彼も微笑んでくれた。その笑顔が一番好きなんだ。

 これは私と彼の、哀しい恋物語。