「おっはよ〜、桜くん!あれ、元気ない?」
「あっったり前じゃないですか!何時だと思ってんですか!」
「元気じゃん〜w」
大声を出して後悔した。スマホの時計を確認すれば、今はまだ朝の4時だ。いくら早起きのお母さんでも、起きているはずがない。
「それで、なんですか?」
「ディズニーランドに行くから!急いで!」
「はぁ?何言ってんですか、寝ぼけてんですか?」
「寝ぼけてませんー。この前の駅で待ち合わせね!泊まりだから、トランクで来てね〜。じゃあ、30分後に!」
もう、詳しいことを聞き出すことも諦めた。僕の中で何か、区切りがついたのかもしれない。でも、いくらなんでも今から30分でトランクも用意して、駅に行くなんて、と思いながらリビングへ降りると、トランクが用意されていた。うちの母親はエスパーなのか?それとも、昔、僕のような男子を連れ回したことがあるのだろうか。後者の方が確率的には高そうだ。
"昨日の子、突拍子もないことを言い出しそうだったから、お母さんが、色々用意しといたわよ!久しぶりの友達との夏休み、楽しんでらっしゃいね!d(˙꒳˙* )"
やはり、学生時代に戻ったつもりだったのか。よくわかんない絵文字書いてあるし、、。お母さんの寝室を開けて、こっそり寝顔を覗いてみると、いつもより幼い顔をしている気がした。
「行ってきます」
小さな声で我が家はそう告げると、僕は家を出た。
「おっはよ〜、桜くん!準備間に合ったみたいでよかったよ〜」
「セ、、莉里さん。今何時だと思ってんですか。4時半ですよ、静かにしてください」
「行くよ、車の運転手さん、待たせてるから」
ん?車の運転手さん?今なんか聞き慣れない単語が聞こえたような気がしたのだが気のせいだっただろうか。僕の聞き間違いではなかった。志穂さんは、車道に停まっている車に向かって行って、そのまま、乗った。
「何してんですか、車ってどうゆうことですかね?」
「えっとね」
「電車で行くと疲れるだろう?乗り換えとかも大変だし。だからと言って、バスはバスで窮屈だ。だから、レンタカーと運転手さんを雇った」
「雇った?」
「うん。うちの家はお金持ちってわけでもないけど、今はお金があるんだよ。だから、使っちゃおうということで。普段からこんなことしてるわけじゃないよ?」
「そうであってほしいですけど、、」
もう、志穂さんがやっていることすら意味不明だ。僕が、里莉さんと志穂さんの行動を理解できる日は来るのだろうか。
「でも、車の中も暇かも」
「、そうなる気はしてました」
3人で車の中にいれば、広くて居心地はいいものの、特にできることもない。特に何も持ってないし。
「お、そういうと思った。私、トランプ持ってるんだ。他にも色々あるよ」
ほら、と言って、たくさんのボードゲームやらゲーム機やらを取り出す志穂さん。こんなの、いつ使うつもりで持ってきたんだろう?
「ほら、じゃあ、まずはババ抜きでもしようか」
「ど定番ですね」
「いいじゃんいいじゃん!ほら、カード配るから、桜くん、手どけて」
「はいはい」
そんな調子で始めたババ抜きだったが、里莉さんが圧倒的に弱かった。思ってることが顔に出やすいのが致命傷だった。それに対して、僕も志穂さんも、ポーカーフェイスが得意だったもんだから、負けるのも当然といったところだ。
里莉さんの顔ったら、3歳児か、というほどに分かりやすく、あまりにもコロコロ変わるものだから、面白くてしょうがなかった。
「里莉、また顔に出てる」
「あははっ!里莉さん、わかりやすすぎw」
なぜかわからないが、2人が僕の顔をじっとみてきた。そして、驚いた顔のまま、こういった。
「桜の笑う顔、初めてみた〜」
「桜くん、笑うと可愛いじゃんか〜」
と。
「え、僕ってそんなに笑ってないですかね」
…なんて言ったみたけれど、笑ってない自覚は大有りだった。中学に入ってから、思うように笑えなくなって、表情を隠すようになって、そのうちに、自然にポーカーフェイスが得意になってしまったのだから。
「そうだよ。初めて!しかも、多分無意識、だよね?」
「うわー、ちょーレアじゃん。写真撮っときゃよかった」
「エ、ヤナンデスケド」
僕は無意識のうちに笑っていたようだった。久しぶりに、愛想笑いじゃなくて、無理に、でもなくて。普通に。僕は、僕なりに、この旅行を楽しんでいるようだった。、、、不本意だが。不本意ではあるが。
「うわ、これ、絶対早く着きすぎたんじゃないですかね」
「まあ、いいじゃん、車で待ってればいいし。せっかく、車借りたしね!」
志穂さんが珍しくはしゃいでいた。2人は、数ヶ月前に来ていたらしいから、そんなに久しぶりではないはずだけど。僕なんか、最後に行ったのは、小学生の時だ。そう言ったら、
「え?!ほんとに?それは、楽しまなきゃだね。ねえ、桜くん、志穂、どれがいい?」
里莉さんは、そんなことを言って、カチューシャ、帽子、ヘアバンドなど、たくさんの写真を見せてきた。
「僕は何でもいいですけど」
「桜〜、あ、そうだ。桜って苗字じゃん?名前で呼んでいい?」
「あ、はい。どうぞ」
「へ?あ、いいの!じゃあ、優希!」
お母さん以外に優希、と呼ばれたのなんて久しぶりで、なんかこそばゆい気持ちになった。
「優希君〜、絶叫系だいじょぶ?」
「あ、はい。むしろ好きな方かと」
「なんだ、残念。優希の怖がるところも見てみたかったのに〜w」
「残念でした、諦めてください」
無駄に開演時間より早く着いてしまった僕たちであったが、さすが学校一の陽キャ女子2人。ほんとに無駄に時間があったにも関わらず、話のネタが尽きることもなく、話し続けていた。志穂さんが持ってきたゲーム機で、ゲームもした。ゲームなんて、ゲーセンでしかしたことないといったら、とても驚かれ、半ば強制的におすすめだというゲームをプレイさせられた。 が、意外と面白かった。中学時代、ゲーセンに入り浸っていた僕は、ゲームは比較的上手い方だったようで、なんか、すごーいって言われっぱなしだった。
こんなにも待ち時間、退屈しないテーマパークは初めてだった。嫌いだったはずの騒がしいセンパイ2人とディズニーに行くという日のはずだったのに、僕はとても楽しんでいた。久しぶりの笑い顔を見られてしまった僕は、もう腹を括って、一日を謳歌することを決めた。こんな夏休み、2度と訪れないと思ったのもあった。
そして、時はあっという間にすぎ、僕たちは、ホテルに向かった。
「はー、楽しかった!それにしても、優希、101匹わんちゃんのヘアバンド、似合ってるね〜」
「はあ、そうですかね?」
「そうだよ!可愛いセンパイが言うんだから、間違い無いよ、優希君〜」
莉里さんも志穂さんも、学校にいる時よりもハイテンションで、とても楽しそうで。見ている方も楽しくなってくるほどだった。
鍵を陽気に振り回す志穂さんに案内され、僕たちは、部屋に向かったのだが。
「え、僕も一緒の部屋なんですか?」
「え、そうだけど?」
「え?じゃないんですけど。僕、一応高校生男子なんですよ?親御さんとか、どんなに陰キャっぽい僕でも、部屋一緒ってなったら、さすがに心配するんじゃ」
「大丈夫、ヘーキヘーキ」
「優希君のお母さんにも連絡済みでっす!」
「え、莉里さん、何をやったんですか」
「え、顧問のセンセに教えてもらったんだよね」
てへぺろみたいな感じで言われても困るのだが。個人情報という概念はないのか。まあ、この人たちにそんなこと言っても無駄か。やることのスケールが違いすぎるからな。
もう諦めている僕は、部屋が同じだということもしょうがないと思うことにし、適当に寝る準備をして、ソファに横になった。
「あれ、優希君。なんでソファ?」
「なんでって。ベット狭いと2人寝にくいでしょうし、一応分けた方がいいかと」
「え、そんなの気にしないでいいよ、ねえ、志穂?」
「うん、優希も疲れているだろうし、ソファで寝かせて、疲れが取れないなんてなったら、夏休み、遊びに誘う回数が減っちゃうだろ?」
「え、また誘うつもりだったんですか?」
「もちろん!今年の夏休みは退屈させないからな」
「てゆーことで、ベットへどうぞ〜」
ベッドに寝ていいと言われて断るのもあれかと思い、ベッドの端に縮こまって寝ることにした。
それにしても、今日は、あまり疲れなかったな。たくさん人がいる場所だったのに、あまり気にならなかった。
これからもこんな日々が続くなら、騒がしい夏休みも悪くない、なんて思ってしまった。
「あっったり前じゃないですか!何時だと思ってんですか!」
「元気じゃん〜w」
大声を出して後悔した。スマホの時計を確認すれば、今はまだ朝の4時だ。いくら早起きのお母さんでも、起きているはずがない。
「それで、なんですか?」
「ディズニーランドに行くから!急いで!」
「はぁ?何言ってんですか、寝ぼけてんですか?」
「寝ぼけてませんー。この前の駅で待ち合わせね!泊まりだから、トランクで来てね〜。じゃあ、30分後に!」
もう、詳しいことを聞き出すことも諦めた。僕の中で何か、区切りがついたのかもしれない。でも、いくらなんでも今から30分でトランクも用意して、駅に行くなんて、と思いながらリビングへ降りると、トランクが用意されていた。うちの母親はエスパーなのか?それとも、昔、僕のような男子を連れ回したことがあるのだろうか。後者の方が確率的には高そうだ。
"昨日の子、突拍子もないことを言い出しそうだったから、お母さんが、色々用意しといたわよ!久しぶりの友達との夏休み、楽しんでらっしゃいね!d(˙꒳˙* )"
やはり、学生時代に戻ったつもりだったのか。よくわかんない絵文字書いてあるし、、。お母さんの寝室を開けて、こっそり寝顔を覗いてみると、いつもより幼い顔をしている気がした。
「行ってきます」
小さな声で我が家はそう告げると、僕は家を出た。
「おっはよ〜、桜くん!準備間に合ったみたいでよかったよ〜」
「セ、、莉里さん。今何時だと思ってんですか。4時半ですよ、静かにしてください」
「行くよ、車の運転手さん、待たせてるから」
ん?車の運転手さん?今なんか聞き慣れない単語が聞こえたような気がしたのだが気のせいだっただろうか。僕の聞き間違いではなかった。志穂さんは、車道に停まっている車に向かって行って、そのまま、乗った。
「何してんですか、車ってどうゆうことですかね?」
「えっとね」
「電車で行くと疲れるだろう?乗り換えとかも大変だし。だからと言って、バスはバスで窮屈だ。だから、レンタカーと運転手さんを雇った」
「雇った?」
「うん。うちの家はお金持ちってわけでもないけど、今はお金があるんだよ。だから、使っちゃおうということで。普段からこんなことしてるわけじゃないよ?」
「そうであってほしいですけど、、」
もう、志穂さんがやっていることすら意味不明だ。僕が、里莉さんと志穂さんの行動を理解できる日は来るのだろうか。
「でも、車の中も暇かも」
「、そうなる気はしてました」
3人で車の中にいれば、広くて居心地はいいものの、特にできることもない。特に何も持ってないし。
「お、そういうと思った。私、トランプ持ってるんだ。他にも色々あるよ」
ほら、と言って、たくさんのボードゲームやらゲーム機やらを取り出す志穂さん。こんなの、いつ使うつもりで持ってきたんだろう?
「ほら、じゃあ、まずはババ抜きでもしようか」
「ど定番ですね」
「いいじゃんいいじゃん!ほら、カード配るから、桜くん、手どけて」
「はいはい」
そんな調子で始めたババ抜きだったが、里莉さんが圧倒的に弱かった。思ってることが顔に出やすいのが致命傷だった。それに対して、僕も志穂さんも、ポーカーフェイスが得意だったもんだから、負けるのも当然といったところだ。
里莉さんの顔ったら、3歳児か、というほどに分かりやすく、あまりにもコロコロ変わるものだから、面白くてしょうがなかった。
「里莉、また顔に出てる」
「あははっ!里莉さん、わかりやすすぎw」
なぜかわからないが、2人が僕の顔をじっとみてきた。そして、驚いた顔のまま、こういった。
「桜の笑う顔、初めてみた〜」
「桜くん、笑うと可愛いじゃんか〜」
と。
「え、僕ってそんなに笑ってないですかね」
…なんて言ったみたけれど、笑ってない自覚は大有りだった。中学に入ってから、思うように笑えなくなって、表情を隠すようになって、そのうちに、自然にポーカーフェイスが得意になってしまったのだから。
「そうだよ。初めて!しかも、多分無意識、だよね?」
「うわー、ちょーレアじゃん。写真撮っときゃよかった」
「エ、ヤナンデスケド」
僕は無意識のうちに笑っていたようだった。久しぶりに、愛想笑いじゃなくて、無理に、でもなくて。普通に。僕は、僕なりに、この旅行を楽しんでいるようだった。、、、不本意だが。不本意ではあるが。
「うわ、これ、絶対早く着きすぎたんじゃないですかね」
「まあ、いいじゃん、車で待ってればいいし。せっかく、車借りたしね!」
志穂さんが珍しくはしゃいでいた。2人は、数ヶ月前に来ていたらしいから、そんなに久しぶりではないはずだけど。僕なんか、最後に行ったのは、小学生の時だ。そう言ったら、
「え?!ほんとに?それは、楽しまなきゃだね。ねえ、桜くん、志穂、どれがいい?」
里莉さんは、そんなことを言って、カチューシャ、帽子、ヘアバンドなど、たくさんの写真を見せてきた。
「僕は何でもいいですけど」
「桜〜、あ、そうだ。桜って苗字じゃん?名前で呼んでいい?」
「あ、はい。どうぞ」
「へ?あ、いいの!じゃあ、優希!」
お母さん以外に優希、と呼ばれたのなんて久しぶりで、なんかこそばゆい気持ちになった。
「優希君〜、絶叫系だいじょぶ?」
「あ、はい。むしろ好きな方かと」
「なんだ、残念。優希の怖がるところも見てみたかったのに〜w」
「残念でした、諦めてください」
無駄に開演時間より早く着いてしまった僕たちであったが、さすが学校一の陽キャ女子2人。ほんとに無駄に時間があったにも関わらず、話のネタが尽きることもなく、話し続けていた。志穂さんが持ってきたゲーム機で、ゲームもした。ゲームなんて、ゲーセンでしかしたことないといったら、とても驚かれ、半ば強制的におすすめだというゲームをプレイさせられた。 が、意外と面白かった。中学時代、ゲーセンに入り浸っていた僕は、ゲームは比較的上手い方だったようで、なんか、すごーいって言われっぱなしだった。
こんなにも待ち時間、退屈しないテーマパークは初めてだった。嫌いだったはずの騒がしいセンパイ2人とディズニーに行くという日のはずだったのに、僕はとても楽しんでいた。久しぶりの笑い顔を見られてしまった僕は、もう腹を括って、一日を謳歌することを決めた。こんな夏休み、2度と訪れないと思ったのもあった。
そして、時はあっという間にすぎ、僕たちは、ホテルに向かった。
「はー、楽しかった!それにしても、優希、101匹わんちゃんのヘアバンド、似合ってるね〜」
「はあ、そうですかね?」
「そうだよ!可愛いセンパイが言うんだから、間違い無いよ、優希君〜」
莉里さんも志穂さんも、学校にいる時よりもハイテンションで、とても楽しそうで。見ている方も楽しくなってくるほどだった。
鍵を陽気に振り回す志穂さんに案内され、僕たちは、部屋に向かったのだが。
「え、僕も一緒の部屋なんですか?」
「え、そうだけど?」
「え?じゃないんですけど。僕、一応高校生男子なんですよ?親御さんとか、どんなに陰キャっぽい僕でも、部屋一緒ってなったら、さすがに心配するんじゃ」
「大丈夫、ヘーキヘーキ」
「優希君のお母さんにも連絡済みでっす!」
「え、莉里さん、何をやったんですか」
「え、顧問のセンセに教えてもらったんだよね」
てへぺろみたいな感じで言われても困るのだが。個人情報という概念はないのか。まあ、この人たちにそんなこと言っても無駄か。やることのスケールが違いすぎるからな。
もう諦めている僕は、部屋が同じだということもしょうがないと思うことにし、適当に寝る準備をして、ソファに横になった。
「あれ、優希君。なんでソファ?」
「なんでって。ベット狭いと2人寝にくいでしょうし、一応分けた方がいいかと」
「え、そんなの気にしないでいいよ、ねえ、志穂?」
「うん、優希も疲れているだろうし、ソファで寝かせて、疲れが取れないなんてなったら、夏休み、遊びに誘う回数が減っちゃうだろ?」
「え、また誘うつもりだったんですか?」
「もちろん!今年の夏休みは退屈させないからな」
「てゆーことで、ベットへどうぞ〜」
ベッドに寝ていいと言われて断るのもあれかと思い、ベッドの端に縮こまって寝ることにした。
それにしても、今日は、あまり疲れなかったな。たくさん人がいる場所だったのに、あまり気にならなかった。
これからもこんな日々が続くなら、騒がしい夏休みも悪くない、なんて思ってしまった。