「こんにちわ。お邪魔してもいいかな?」
「…どうぞ」
「ありがとう〜」
「私もお邪魔するね」
 これだけ無愛想に対応しても、まだ僕に飽きてくれないとは。物好きなセンパイたちというのも困ったものだ。

「桜くん、ここは何部だったけ?」
「…読書同好会です。」
「部員は?」
「、、、僕1人ですが」
なにか?と言う意味を込めて、センパイの方を見たのだが、そんなのは意に介さず。さすがセンパイ。
「桜は今何を読んでるの?」
「…聞いても面白くないですよ」
卑屈になっても、まだ興味を持つか。

 あの日、狛野センパイとぶつかってしまって、後日、センパイが再度謝りに来てくれた。そこまではよかったのだが。ここの教室に僕1人しかいないと知るや否や、毎日のようにここに来ては、挙句の果てに、本当に毎日来るようになってしまった。

 この人たちは、よっぽど暇なのか。

いや、仮にもセンパイ方。馬鹿にしてはいけない、、、はずだ。

しかし。

なあ、里莉。なあに〜、志穂。

 人の部室に入ってきては、特に何もしない。そんな、あの2人は、学校の二大美女。僕が入学した当初から、一個上の代にとっっても可愛い先輩がいると噂されていた。僕も、興味を持たないことはなかったのだが。

 実際はコレだ。部員1人の読書同好会の部室に押しかけては、特に何もしない。

「坂野センパイ、狛野センパイ。いいかげん、部員でもないのに部室を好き勝手使うのは、やめてもらえませんかね?せっかくの部活動の時間に、本に集中できません。」
「え〜、別に邪魔はしてないし、良くない?」
狛野莉里(こまのりり)。ふわふわとした雰囲気に、誰にでも分け隔てなく接する優しさ。それが“女神”と呼ばれる所以だ。
 ただ、なぜか、僕にだけは我儘な態度をとってくる。
「少し、教室を借りているだけだ」
その原因は主にこの人にある。坂野志穂(さかのしほ)。入学当初から、狛野センパイと仲がいいらしく、様子を見るに、とっっても甘やかしているようなので、この2人が一緒にいると、たいてい狛野センパイが我儘になる。そして、僕は、それに巻き込まれている。
 迷惑な話だ。

 その上、、、
「志穂、寄りかかってもいい?」
「いいよ、莉里」
こんな調子で、まるで部屋に2人きりかのように、女子2人で戯れてるのだ。
 女子2人とはいえ、この学校は、制服の規定が緩く、着こなしがその人のファッションセンスを表す。当然、この2人は、制服もセンスがいいわけなのだが。坂野センパイは、ショートカットの上に、ズボンタイプの制服。しかも、高身長。、、、僕よりも背が高い。その上、話し方も男っぽいのだ。その2人が一緒にいると、他校の人たちは、美男美女カップルと間違えるほどなのだ。
 そんな2人が同じ教室内でもはや恋人なんじゃないか、みたいな甘々な感じの雰囲気を出されると、こちらも居心地が悪くなると言うものである。
 何せ僕は、前髪が長く、メガネで根暗な陰キャ男子なのだから。

「本当にやめてもらえませんか。空き教室なんて、他にいっぱいあるじゃないですか。というか、センパイ方、部活は?」
学校の二大美女がどこかの部活に入っていれば、大騒ぎになりそうなものだが、ふと思えば、そんな話聞いたことがない。やっぱり、センパイ方はひm、、、
「桜、今、やっぱり暇なのかと思っただろ」
あ、バレた。
「いろいろ事情があって、私は部活動に参加していないんだ。里莉は、私に合わせて、何も部活をやっていない」
「そ、志穂と一緒にいたくて、部活入ってないんだ〜」
「ア、ソウデスカ。」
「興味なさすぎじゃない?」
正直、センパイの事情とか興味ないし。「はい、興味ないです。」とか言うと、めんどくさそうだから、黙っておくけど。

「そうだ、ところで、私たちは、部員でもないのに部室に押しかけ、特に何もしていないから、桜に咎められているんだったよね?」
なんだ、自覚はあったのか。
「はい、そうですけど」
「それなら、私たちが、読書同好会に入れば、その問題は解決するよな?」

「はぁ?」
何を言ってるんだこの人は。
「先輩にはぁ?、とか言わないの。だめだよ、君は後輩なんだから」
「とりあえず、それはどうでもよくて」
「わー、無視されたー」
狛野センパイはとりあえず放っておいて。坂野センパイの話だ。
「どういうことですか?」
「桜には珍しいね、理解が追いつかない?」
ニコニコしながら言われると、よりムカっとするのだが、ここは怒っていいところだろうか。
「冗談、冗談。そんな怖い顔して見ないでよ。っと、話を戻すね。今、私が言ったのは、部員になれば、この部室に出入りしてもなんの文句もないよねって話」
「ああ、はい。それはわかりました。でも」
「でも?」
「センパイ方、本とか読むんですか?」
正直言って、1番対極にありそう。とかは、思っても言わないことにする。
「私は読むよ。ジャンルを問わず、さまざま」
「私も読むよ〜。主に感動系とか恋愛系とかだけど」
桜くんが私に対して失礼な偏見を持ってそうだから言っておくけど。と付け足して、狛野センパイも僕に本を読むことを教えてくれた。最近のセンパイは、勘が良すぎないか?

「これで、本を読むことも証明したし、読書同好会の唯一の部員として、新入部員を拒否することはできないよね」
「うぅ、確かに」
「やった〜、さすが志穂。目的達成だね!」
まさか、最初からここに入り浸るつもりだったのか。最初に訪ねてきたときから。まあ、もうどうでもいいや。今さら拒否する手もないし。しょうがないから、新入部員2人を甘んじて受け入れるとしよう。