「おはよう、優希君」
「おはようございます、莉里さん」
「じゃあ、行こっか」
「はい」
俺たちは相変わらず無言だった。特に何も、話すことはないと思ったのかもしれない。
 本当は、話さなきゃいけないことがあると、思っていたはずだけど、話したくなかった。話すと、志穂さんがこの世にもういないっていうことが、実感できてしまうだろう。信じたくないって言う気持ちが、まだ、ある。

 葬式会場の前に着いたけれど、どうしても、会場の中に入っていくことができなかった。
 俺たちは、葬式が行われるのを、ドアの外で見ながら、近くに座り込んでいた。
「ごめんね、行こうとかいって、やっぱ入れないね」
「いえ、俺も無理なんで、お互い様ですよ」
なんとなく、言葉を交わさずとも、莉里さんの思ってることがわかるような、そんな気がした。





 葬式が終わると、1人の女性が、会場から出てきた。とても、志穂さんに似ていた。
「あなたたちが、莉里ちゃんと、優希くん?」
「あ、はい。そうです」
「突然ごめんなさい。私、志穂の母です。さほど仲良くしてくれて、本当にありがとう。志穂、ここ最近、ずっと楽しそうだった」
「いえ、そんな...!こちらこそ......!」
「それで、渡したいものが、あるの」
そう言って、手紙を差し出された。
「莉里と優希へって、書いてあってね。きっと、お友達の名前だろうと思ったの。来てくれて、よかったわ。これを、読んで欲しいの。志穂が、屋上にでも行ってもらって、って、メモに書いていたわ」
そう言って、志穂さんのお母さんは、会場へと戻っていった。


「じゃあ、屋上にでも行こっか」
「はい」







〜莉里と優希へ〜
 2人のところに、この手紙がちゃんと届いてるかな?お母さんに渡してって頼んだんだけど。

 2人、一緒に読んでね。2人宛に書いてるからさ。

 莉里。今までありがとう。小学校からの付き合いだよね。本当に長い間、私の親友でいてくれて、本当にありがとう。私、高校に入って、ショートにしたじゃん。ロングからショートにするの結構勇気出したんだよね。それを、真っ先に気づいて、「ちょー可愛い!似合ってる‼︎」って言ってくれたの、すごく嬉しかった。あの時、もう病気治らないってわかって。髪の毛長いと、色々時間かかるから、切ろうと思って。ほんとはちょっと怖かったんだ。でも、真っ先に誉めてくれた。だから、なんか、切ってよかったーって思えて。本当にありがとう。親友に出会えるって、とっても運がいいなって、よく思ってたんだ。

 優希。私たちと仲良くしてくれて、ありがとう。優希、莉里とぶつかって、私たちを見た時、少し、驚いた顔をしてた。その時は、先輩と急にぶつかっちゃって焦ってるのかなと思ったけど、違ったんだね。私の胸に、水たまりが見えてたからなんだね。病院で、私が、水たまりの色のこと聞いた時に、誤魔化してくれてありがとう。私の本当の後悔は、藍沢くんに告白しなかったことなんかじゃなかった。そんなことみたいに言うのも良くないけど。私は、まだ莉里に、お礼を言えてなかった。正直な気持ちを話せてなかった、その時。それが後悔だったんだね。優希の顔見てわかったの。ありがとう。そのあとちゃんと、莉里にありがとって伝えたから、心残りはないよ。最後見たでしょ。私の色、ちゃんと綺麗なピンク色になったの。なんで、心残りないと、ピンクなんだろうね。私、それ考えてたんだ。結局、恋っていいね、くらいしか思いつかなかったんだけどね。今までありがとう。


 2人ともありがとう。私が死んでも、2人は仲良くしてよ。2人仲良くしなかったら、私が悲しむからね。
 できれば忘れないで欲しいけど、私のことなんか忘れるくらいに、楽しい日々を過ごして欲しいなって思うよ。

               坂野 志穂
p.s. 泣いていいよ



「うわぁぁぁぁぁぁぁあ」
叫ぶとも泣くともとれないような声をあげて、莉里さんは涙を零した。今まで我慢していたのか、改めて溢れ出してきたのか、わからないけど、。

「あああぁぁぁぁぁ、うぁぁぁぁぁぁ」
泣かないつもりだった。泣く資格なんて無いと思った。過去から逃げた、偽りの姿で出会って、こっちばかりが得をして。もらったものはあれど、あげられたものなんて、何一つとしてなかった。そう思っていた。
 志穂さんは、俺に、たくさんお礼を言ってくれた。ありがとうと、言ってくれた。今まで、誰にも必要とされていなくて、いてもいなくても変わらない存在を演じ続けていたのに、志穂さんは、俺に気づいてくれた。ただの陰キャにすぎなかった俺に。
「泣いていいよ」
その文字を見て、この我慢しなくていいんだと思ってしまった。思わせてくれた。

 俺と莉里さんは本当に本当に長い間泣いた。一回涙が引いても、もう一回泣いたりしてしまって、繰り返し繰り返し泣いた。人生で1番だろうなと思うくらい。

「ねえ、優希くん。君の過去について、聞いてもいい?」
「はい。ようやく自分の中で整理できました」
そう言って俺は、中学時代の話をし始めた。


「俺の小学生の時の話はしましたよね。急にパステルカラーが見えるようになった話。祖母に相談しに行ったあと、母と父にも打ち明けたんです。その時は、大変だね、なんとか、父さんたちも助けるから。って、理解してくれたみたいだったんです。でも、小学校高学年になって、俺がこの力を持て余して、何が何だかよくわからなくなって、頭が混乱していた時、母と父は、上辺だけの言葉しかかけてくれませんでした。大丈夫?大変だねって。それで、俺はグレました。髪を金髪に染めて、成績はそこまで悪くなかったから、学校でグレてても、テストの点数はよくて特に何も言われなかった。中学の時の俺は、パステルカラーが見えることを忘れたくて、たくさんの女と付き合っては別れを、繰り返してました。夜の街みたいなところや、ゲーセンやカラオケに入り浸ったりもしました。ギリギリ法に触れないくらいのことばかりやってました。でも、ある時、ヤンキーだったわけじゃないのに、見た目で勘違いされて、喧嘩に巻き込まれて、友達の1人が結構大きい怪我を負って。俺は病院に行っちゃったんです。パステルカラーが見えることも忘れて。そうしたら、いろんな人の胸に、水たまりが、パステルカラーの水たまりが浮かんで見えたんです。俺は気分が悪くなって。俺は、必死で、家に帰って、知り合いが1人もいない学校を選んで受験して、髪を黒に染め直して、陰キャになったんです。そのあとは莉里さんの知ってる通り。志穂さんと莉里さんに、最初は嫌々連れ回されてましたけど、いつの間にか、楽くなっていたんです。」

あと一つ、伝えなくてはいけないことが残っていた。

「俺は、志穂さんが好きでした。今考えると、ボーイッシュでカッコいい志穂さんに憧れていただけかもしれないと思ってます。でも、夏休みの半月間、俺は確実に志穂さんが好きでした」

「そっかそっか。私と同類だね」
莉里さんはそう言って笑った。正直、驚かれると思ったし、もしかしたら気持ち悪いとまで思われてしまうかもしれないと、少し怖かった。だけど、莉里さんは、ふわっと笑った。親友を失くしたあととは思えないほどに。
「私もね、志穂が好きなの。優希君と一緒だね。ふわっと笑う志穂が大好きだった。中学まで、志穂は、明るくて花のように笑う女の子だったんだよ。でも、ショートカットにしてから、ボーイッシュに生まれ変わったみたいだった。だから、私が志穂を真似した。ふわっと笑って、周りにいる人全員癒すような、そんな人になった。」
そこまで言うと、引かないでね、と前置きした。
「私、女の子が好きな訳じゃないの、初恋は小学校の時。普通にカッコいい男の子だった。中学でも、普通に恋してた、でも。高校に入ってから、志穂を友達としてじゃない、なにか違う感情で好きになった。女の子が好きなんじゃなくて、志穂が好きなの。わかってくれる?」
「はい、なんとなく。わかります」
「そっかそっか〜、よかった」

 俺らは、言葉がなくても、気持ちが通じ合っていることを実感できた。



 屋上に吹く風が、暖かくて、でもどこか冷たくて。でも、本当に、心地よかった。